松沢呉一のビバノン・ライフ

町田進が言う「強者の論理」とは-『闇の女たち』解説編 3-(松沢呉一)-2,216文字-

闇の女とは誰のことであったのか-「闇の女たち」解説編 1「パンパンのいろいろ-「闇の女たち」解説編 2」の続きです。

 

 

 

『闇の女たち』はもうじき発売

 

vivanon_sentence闇の女たち』は4月28日頃には全国主要書店に並びます。数日遅れるかもしれませんが、新潮文庫ですから、主だった書店には入るはず。

契約から外して欲しい旨を伝えているので、電子書籍にはなりません。電子書籍自体に否定的なのではないのですが、今現在の方法には否定的です。私が考えている電子書籍のありようが実現する日まで、本は本という形で読んで欲しい。

闇の女たち』は形になるまでに十年以上の歳月が流れております。新潮社から『魔羅の肖像』の文庫が出たのは2000年。あれが出た頃に、私は熱心に街娼のインタビューをし続け、古い記録を読み続けていたのです。

いつも私の興味と世間の興味はズレるところがあって、『魔羅の肖像』は雑誌連載時、読者アンケートでワースト1を独走して、1年で連載を打ち切られました。

原稿は最後までできていたので別の出版社に単行本の企画を出したところ、「マニアックすぎる」という理由でボツにされ、しゃあないのでミニコミで出しました。

それが翔泳社の目に留まって単行本化。時間がかかりながらも初版を売り切ったので、成績は悪くなかったのですが、これが新潮社から文庫化されたら、あれよあれよと四刷か五刷まで行ったんじゃなかったかな。

今に至るまで、私の本でこんなに売れたものはありません。ワースト1独走だったのに。連載打ち切りにだったのに。単行本化を断られたのに。

時代がやっとチンコに追いつき、文庫になった頃には、私の興味は街娼に向かっていたわけです。

街娼のインタビューもまた読者にも編集者にも受けが悪く、インタビューの継続はできなくなって頓挫。そして、また今回も新潮社が形にしてくれました。パターンが似てます。

これが形になった頃には、銭湯巡りやヘビ探しをしている私です。心はすでに台湾ですし。

 

 

600ページ弱で810円!!

 

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先日、知人に教えられて知ったのですが、告知が出始めました。

以下はhonto

「日本人街婦の記録」は「日本人街娼の記録」の間違いです。

定価810円なんですね。これを見て初めて知りました。いいカンジかと思います。600ページ弱ある大部の文庫でこの値段。優に二冊分ですよ。さすが新潮文庫(追記参照)。

数日前に担当編集者と話していたところなのですが、新潮文庫は他社より値段設定が安く、千円を超えることはまずないんだそうです。これは部数が多いからできることでもあるのですが、そもそも文庫は安くなければいけないという考えが新潮社は強いらしい。

千円以上でも読みたい内容であれば買いますが、文庫で千円は私も抵抗があります。とくにこの文庫は千円を超えて欲しくないと思っていたので、810円は理想的です。第二部は大幅に削っているので、いっそ700ページくらいにして、900円とかでもよかったかな。ま、安い方がいいか。

本が売れると印税が入ってきて嬉しいので、「少しでも売れて欲しい」とは思うのですけど、それは金が入るのが嬉しいだけ。「少しでも多くの人に読んで欲しい」なんて殊勝なことはまず考えません。

そのため、「読まなくていいので買って欲しい。買ってすぐに捨ててもいい」と口癖のように言ってきましたが、今回は定価が安くなって印税が減っても、多くの人に読んで欲しいと心底願っております。

追記:担当編集者によると、実は定価はまだ決定しておらず、810円か850円のどちらかになるだろうとのことです。

 

 

『闇の女たち』が明らかにするもの

 

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文庫の作業に取り掛かってからでも半年以上かかっています。純然たる書き下ろしではないのに、内容も分量も、実質二冊分あるため、本を作るのに、こんなに時間がかかったのは初めてかと思います。

時間的なことだけじゃなく、『闇の女たち』への思い入れは強く、これが書店に並ぶことの意味は街娼にこだわってきた私にとって特別なものがあります。

いつのまにやら、「生活のためにやむなく街に立った戦争の被害者」という見方をされるようになったパンパンでありますが、第一部、第二部を通して読んでいただければその実像が見えてきます。

ただ生活に困っていただけだったら、赤線で働いたってよかったのに、なぜ数十万人に達する女たちが路上に立ったのか。とりわけ洋パンはなぜ米兵が相手でなければならなかったのか。金のためなら誰だっていいはずです。『闇の女たち』読むと、その理由もはっきりわかります。

 

 

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