松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスワークの理解と議論を深めるべし-「闇の女たち」解説編 26(松沢呉一)-2,766文字-

地域特性と法規制の関係-「闇の女たち」解説編 25」の続きです。

 

 

デリヘルよりソープランドの方が安全である現実

 

vivanon_sentenceここまで見たように、管理売春を違法とし、個人売春を非犯罪化している国があります。よくある「搾取」という批判からすると、これは望ましいようにも見えます。

しかし、これを実現することで、殺されるセックスワーカーが激増する可能性が高い。トルコ風呂の時代から、ソープランドで仕事中に殺されたケースはほとんどない。十年に一回あるかないかのレアケースです。赤線時代も数は少なくて、私が確認できたのは、夫に殺されたケースでした(ここは記憶違いで、他にも記事を見つけてました。「赤線殺人事件」を参照のこと)。他にもあるでしょうけど、頻繁に殺されていたわけではない。

一方で、『闇の女たち』に書いたように、焼け跡時代には街娼が多数殺されています。その数は数年間で三桁に上るのではなかろうか。また、無店舗型が合法化されて以降、報道されているだけでも毎年のように殺人が起きています。

青線 売春の記憶を刻む旅売防法によって、ソープランドは違法性が疑われる業種です。対してデリヘルは合法。しかし、殺人の被害は後者の方が多いわけです。

もちろん、母数の違いがありますが、それを越えてデリヘルの方が被害が多いことはまず間違いない。

もともと出張は違法。その時代から、ホテトル嬢が殺された事件はいくつか起きてましたが、合法化された、つまりは相対的に非犯罪化されるとともに、殺人事件が増加した、少なくとも表面化したと言えそうです。

つまり、この点においては、「合法・非合法」ではなく、「店舗があるか否か」「スタッフの監視があるか否か」によってリスクが決定されているのであって、個人売春を完全に非犯罪化したところで、結果、殺人事件が急増したのでは、なんのための非犯罪化かってことになりましょう。

また、性感染症対策を適切に進めるためには、バラバラの個人ではなく、集団化、組織化され、その窓口があった方が効率がいい。

こういったことをひとつひとつ検討する必要があって、それなしに個別のケースに対しても無条件な「非犯罪化を」と要求するのは軽率すぎようかと思います。

※書影は八木澤高明著『青線』。本は出てから半世紀くらいしてから読むことにしているので、最近のものは全然チェックしておらず、この本の存在も知らなかったのですが、この間、出版社から進呈していただきました。半世紀経ったら読みます(んなことはないですけど、「『闇の女たち』疲れ」のため、すぐには読めんです)。

 

 

アムネスティの絶大な力

 

vivanon_sentence この「セックスワークの非犯罪化」という要求は、私が編集した『売る売らないはワタシが決める』の柱になったテーマでもありますが、いくら私らがそれを言っても聞く耳を持つ人たちは少なかったものです。

当時は非犯罪化を要求するグループUNIDOSが存在し、この本はそのメンバーが多く参加しています。UNIDOSはSWASHの前身ですが、SWASHになって方向転換をし、「社会に訴える」のではなく、働く者たちや経営者に向けての活動を主体にしていったのも、社会がこのことに向き合うことがなかったためです。

しかし、各国で相対的「非犯罪化」が進み、アムネスティまでが絶対的「非犯罪化」の方針を出したことによって、急速に関心を抱く人が増えてきています。

アムネスティの看板は絶大で、今までセックスワークや性表現への規制を求めてきた団体が、セックスワークを対象から外す動きまで出てきていると聞きました。私らの主張にはこれっぽっちも耳を貸さないくせに、アムネスティが主張すると、ころっと寝返る人たち。みっともねえとは思いますが、結局、こういうことでしかこの国は変わらない。

※昨年12月に台北で行われたワークショップの日本版報告書がSWASHから公開されました。これについてはまた改めてやるとして、まずは読んでおいてください。

 

 

考えず非犯罪化に賛成し、条文を見ず違法だと騒ぐ弁護士

 

vivanon_sentence何しろ、「おっぱい募金」に対して、風営法の条文も確認しないで「風営法違反だ。刑事告訴だ」だと騒いだ弁護士さんでさえも、「オレだってセックスワークの非犯罪化に賛成だ」とおっ しゃるくらいで。

ありもしないエア違法性で犯罪を仕立てあげようと懸命になっておきながら、よくもまあいけしゃあしゃあと言えるものですよ。犯罪化したくてしたくてしょうがないくせしやがって。

おっぱい募金」を擁護する私は、アムネスティの方針は「すぐには実現できない理想」「目指すべき方向」として支持はできても、「条件つきで賛成としか言えない」と考えているわけで、そう簡単に「賛成だ」とは言いがたい。なのに、わかってもいないくせに、よくも安易に「賛成」なんて言えるものです。

 

 

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