柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『お化け屋敷列伝/戦慄迷宮MAX』 観客全員が体感できたのは、みずから飛び込んで詐欺に騙されたあとの虚しい、虚しい虚脱感だけ(柳下毅一郎) -1,831文字-

FireShot Screen Capture #015 - '映画『お化け屋敷列伝/戦慄迷宮MAX』公式HP' - www_obakeyashiki-movie_jp

 

お化け屋敷列伝/戦慄迷宮MAX

 

監督・脚本 若林雄介
出演 ディアナ・ガルザ、マーティン・ブラント、LinQ(杉本ゆさ、伊藤麻希、福山果奈)、KIKKUN-MK-II

 

face映画が終わり、場内が明るくなり、席を立った客たちが口々に

「なんだったんだろうなあこれ」
「マジ意味わからんかった~」

 これほど場内で一体感を感じた映画体験もそうそうない。いや本当、この“映画”の作者たち、いったい何を考えてこんなもんを作ったんだよ! てかマジで何したかったの? 教えてくださいよマジで。

富士急ハイランドには戦慄迷宮という名前のお化け屋敷がある。二階建て、延べ床面積3000㎡の巨大お化け屋敷は「怖いお化け屋敷ランキング」で長きに渡り一位を独占している日本一怖いお化け屋敷である。そのお化け屋敷で、あまりに怖すぎるので実際にはやっていなかった恐怖演出をすべておこなうのが“戦慄迷宮MAX”。実験として志願者をつのって閉園後の富士急ハイランドで“戦慄迷宮MAX”を実行する。あなたはリタイアせず最後まで恐怖に耐え抜けるのか……?

ええと、意味わかる?

これ、六組の挑戦者が“戦慄迷宮MAX”を体験するのを見ている映画。参加者がきゃあきゃあ言うのをスクリーンのこっち側から見るのである。で、それ、なんか怖いことあるのか??? なぜか自撮りしながらぎゃあわあと実況中継する人たちを呆然と眺める71分間。公式HPに行くと「証書発行ページで、『ミッションクリア』と『リタイヤ』の証書を発行できます」いやどうすればこれをリタイヤできるんだよ! 場内失笑以外の声はひとつも聞こえなかったんですけど!

 

 

映像は“戦慄迷宮”のそこかしこに仕掛けられている定点カメラと、参加者が全員撮っている主観映像。つまり、ミドルショットでおそるおそる歩いている人と、やたらとぎゃあぎゃあ騒々しい手ぶれだらけのお化け屋敷の映像。これで何が怖くなると思ったのか、本当に教えて欲しい。“戦慄迷宮”は廃病院を模したお化け屋敷で、中には医療器具やら死体(模型)やら手術室やらが転がっている。マネキンや小道具の中には機械じかけで突然動き出すものもある。加えて“戦慄迷宮MAX”ではゾンビや死体に扮した役者が迷宮のそこかしこに散りばめられており、参加者のふいをついて動き出して襲ってくる。参加者は例外なく

「怖いよ怖いよ」
「動くな動くな」
「何これ怖いよ。半端ないよ。冗談じゃないよ」

 などと実況しながら迷路を抜ける。怖すぎてギブアップするなら「リタイア」と書かれた戸口から外に出ることになる。

 

 

443f2910ab9081e6c5fb7aa8c00ee84d2

(残り 718文字/全文: 1852文字)

ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。

ウェブマガジンのご案内

会員の方は、ログインしてください。

tags: KIKKUN-MK-II LinQ ディアナ・ガルザ マーティン・ブラント 伊藤麻希 杉本ゆさ 福山果奈 若林雄介

« 次の記事
前の記事 »

ページ先頭へ