柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『脳男』 映画化するということは「馬鹿でもわかるようにする」ということなのか(柳下毅一郎)

脳男(日本テレビ 2013)

監督 瀧本智行
脚本 真辺克彦、成島出
撮影 栗田豊道
主題歌 キング・クリムゾン「21世紀の精神異常者21世紀のスキッツォイド・マン」
出演 生田斗真、松雪泰子、二階堂ふみ、江口洋介、太田莉菜

 

 

ぼくはあまりミステリ小説は読まないのだが、この原作 だけは江戸川乱歩賞受賞時に読んでいる。
なかなか面白く読んだことは記憶していたので、この映画にも期待していた。

脳男そして評判が悪くないというので、原作の良さをちゃんと活かしているのかと思っていた。それで見てみたのだが、話が進むにつれてたかまっていく違和感。こ、こんな話だったか? こんな話を、ぼくは面白いと思っていたのか? いやそんなはずは……

 

朝、鷲谷真梨子(松雪泰子)が駅からバスに乗ろうとすると、目前でドアが閉まってバスは出て行ってしまう。中ではやし立てる小学生たち。(……クソがきども、くたばっちまえ……)と心の中で真梨子が毒づいた瞬間、バスが爆発した! 連続爆破犯人は、今回はテレビに出ている占い師をターゲットにしたのだ。占い師を誘拐すると舌を切り取り、体に爆弾を巻きつけてバスに乗せ、バスごと爆破したのである。占い師が適当な予言で犯人を挑発したので、「ならやってやろーじゃねえか!」と思った犯人が、占い通りの犯行で血祭りにあげたのだ。犯人は毎回、テレビや新聞に登場する有名人を狙って、舌を切り取っては爆死させる犯行をくりかえしていた。

そこへ登場するのがワイルドな刑事、茶屋(江口洋介)である。なんせ爆発から必死でクソガキを救い出した真梨子に「あんたらがもうちょっと仕事して気狂いを減らしてくれたらいいんだけどね! あ、さっきの子供死んだから!」と言い放つデリカシーのかけらもない男だ。そんな茶屋がひょんなところから手掛かりをつかむ。爆弾製作に使われた工具が特殊なものだったのだ。工具が売られた先をたどっていった茶屋がたどりついたのはある工場だった。中では争う女の声がする。ドアを開けようとするといきなり爆弾が炸裂して部下が吹っ飛ぶ。中にいたのは一人の男(生田斗真)だった。爆風で傷ついても動じた様子はない男は抵抗せず、すなおに茶屋に逮捕された。

「鈴木一郎」と名乗った男は、肝心なことには何ひとつ答えようとしない。しびれをきらした茶屋は精神鑑定のために真梨子の元へ「鈴木」を送りこむ。

「あんたなら、こいつに『責任能力がない』とか言うことはないだろうからな!」

鑑定のために面談しているうちに、真梨子は奇妙なことに気づく。「鈴木」はまるで感情を持たない男のようだった。人間の感情をエミュレートしているロボットのように……彼の過去を探って、真梨子はかつて学会報告されていた奇妙な患者のことを知る。「鈴木」の本名は入陶大威、大富豪の孫として感情を持たずに生まれた少年だった。大威は理性で身体のすべてをコントロールすることができ、無限の知性を持つ「脳男」だったのだ。大威の教育係と会った真梨子と茶屋は、その特異な生育環境を知る。犯罪を憎む祖父によって、大威は犯罪者を感情なしに始末する殺人マシーンへと育てられていたのだった。茶屋は大きな過ちに気づく。ひょっとして「鈴木」は連続殺人犯ではなく、殺人鬼を捕らえようとしていたのではないか?そのころ、緑川(二階堂ふみ)は新たな爆弾を作りながらキャハハハハと笑っていたのだった……

さて、わりと順を追って説明してしまったが、物語は実はこんな風に語られてはいない。実を言うと二階堂ふみとそのレズビアンの恋人(太田莉菜)が真犯人だというのはわりと早いうちに明かされてしまうのだ。舌にスパイクをインプラントした二階堂ふみはキャハハハと笑いながら爆弾を作り、その恋人は「あたしたちは特別な人間なんだもんね」とすがりつき、「鈴木」が入院している病院に潜入してカメラを仕掛けて動静を監視している。

「こいつはあたしと同類だ!」

すでにここら辺で違和感がある。こんな話だったっけ? キャハハハ笑ってる犯人が勝負を仕掛けてくるとかじゃなく、もっとクールな物語だったような……だいたい大威はなんで緑川が犯人だとわかったのか?とか思っていたら、ついにレズビアン二人組は移送中の大威を襲撃(例によってバイクに乗ってキャハハハと笑いながら)、だが大威を殺しそこねて逃亡する。そこで決着をつけるため今度は病院を占拠。病院中に爆弾をしかけ、真梨子を人質にとって大威を待ち構える。さあ、ゲームのはじまりだ……

いやこれ違うだろ!

と思ったので原作を読みなおしてみたが、二度読んでもやっぱり面白かった。以下、いくつか原作からの改変ポイントを挙げていこう。

まず、犯人は緑川という「男」であり、もちろんキャハハハと笑ったりはしない狂人である。ゲームを仕掛けてくることはなく、もちろん「鈴木」の奪還など試みない。そもそも茶屋は最初から緑川が主犯だと知っており、それゆえ「鈴木」の存在に困惑しているのである(「鈴木」が緑川の居場所を掴むのも、それなりに合理的な推理の結果である)。

二階堂ふみの演じる真犯人の幼稚な行動はすべて映画向けの脚色だ。他人をみくだしている天才的犯罪者というステレオタイプなどもはやギャグにしか見えない、と何度言えばわかってもらえるのか。設定だけでなくマンガでしかない演技も酷いもので、目を剥いて太田莉菜とキスをする場面とか、もうね……

(残り 1052文字/全文: 3264文字)


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tags: さあゲームの始まりです キャハハ 二階堂ふみ 太田莉菜 成島出 松雪泰子 染谷将太 江口洋介 江戸川乱歩賞 瀧本智行 生田斗真 真辺克彦 首藤瓜於 高笑い

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