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女子リーグ連携は「パイが小さいならば大きくすればいいじゃない」Woman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)は難しい時代だからこその挑戦 田口禎則さん

浦和レッズ等で活躍された田口禎則さんは、現在、日本トップリーグ連携機構 理事・事務局長。女子サッカーと縁の深いフットボーラーです。2004年に監督としてさいたまレイナスFC(現・浦和レッズ・レディース)をL・リーグ(現・プレナスなでしこリーグ)初優勝に導き、2006年からは日本女子サッカーリーグ専務理事に就任。今のプレナスなでしこリーグの進む方向を固めました。私は株式会社モックで、なでしこリーグの冠スポンサーのなでしこリーグ担当をしていたとき、モックなでしこオールスター2006前夜祭という華やかなパーティイベントを開催することになりました。そこで、田口禎則さんから付けられた注文は、たったの一つでした。

「選手にお腹いっぱい食べさせてあげてください。」

現役時代はアグレッシブなファイターとして対戦相手から恐れられていた田口禎則さんですが、実は、選手を第一に考える情の深い方です。そんな田口禎則さんが日本トップリーグ連携機構 理事・事務局長として関わってこられたのがWoman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)の立ち上げです。

WAPの目標イメージ(#女子サカマガ作成)

 7つのリーグが連携するプロジェクト

 Woman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)は、女性スポーツリーグ同士が連携し、女性スポーツの社会的価値向上を目指した取り組みを推進していきます。単一リーグでは達成が難しい女性スポーツの価値向上を、アライアンスを通じて実現することを目的にしています。参加しているリーグは「プレナスナスなでしこリーグ(サッカー)」「Vリーグ(バレーボール)」「Wリーグ(バスケットボール)」「日本ハンドボールリーグ」「ホッケー日本リーグ」「日本女子ソフトボールリーグ」「女子Fリーグ(フットサル)」の7つのリーグです。

「価値向上」は、近年の流行語の一つです。でも、具体策がイメージできないことが多い。今回のWoman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)が、具体的には何をしようとしているのか、選手や各リーグはどのように関わるのか、について、田口禎則さんからお話しをうかがいました。

田口禎則さん

企業にお伝えしたいことは協働

田口–まだまだ僕たちWoman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)は「本邦初」なので構想段階のことが多いですが・・・世界でも、こうした例は、あまりないようです。興味をお持ちの企業にはぜひ協働等をさせていただければと思います。遠慮なくお声がけください。僕たちには、企業の力を借りないと出来ないことがあります。ご一緒に取り組ませていただいた結果が、各団体へ利益となってお戻しできるような仕組みにしていきたいので、ぜひよろしくお願いします。 

 選手、指導者、リーグ関係者にお伝えしたいことは共感

田口–これからも、アンケート調査やヒヤリング調査等で、現場の皆さんにはお手間をかけることになります。もちろん、皆さんの毎日の活動、クラブ経営が大切なのですが、その先、長い目で見たときに女子スポーツ界が大きくなるのか、繁栄するのかという視点に立っていただいて、一緒に、いろいろな活動をしていただければと思います。

共同通信は「団体球技リーグ、女性支援へ連携」と短く報じました

共同通信の記事に書かれていたのは、以下の内容です。あまりに短い文章の記事だったので、筆者には具体的なイメージが湧きませんでした。ただ、新しい取り組みに興味は湧きました。そこで、インタビューをお願いすることになったわけです。

事前に選手らにアンケートを実施して課題などを調査。引退後のセカンドキャリアに関する研修、出産や育児の支援などを通し、働きやすい環境づくりを目指すという。学校や地域に選手を派遣するなどの活動を広げ「女性スポーツの社会的価値を高める」としている。

各リーグが単体で新しいことをやるのは難しい時代

—ニュースはかなり広く露出したのではないでしょうか?予想通りの反応と予想外の反応を教えてください

 田口–(プレーヤーや指導者、競技団体関係者といった)スポーツをやっている人たちからはレスポンスがあまりないです。もちろん、トップリーグ機構に参加されている競技団体は、既に今回の発表内容をご存知なのですが、それ以外の団体からは、ほとんど反応がなかったです。日本のスポーツ界は縦割りなので「自分達の牙城」から能動的に外に飛び出して何かをやるということがなかなか出来ない環境です。

企業側からはスポーツを通じた「ジェンダー平等」のアプローチに興味を持っていただきました。最近、多くの企業が、SDGsSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の「ジェンダー平等を実現しよう」について課題を抱えています。興味を持ってくださる企業と、協力しながら良いパートナーシップを見つけて企業が先に動き「社会が変わる→スポーツ界が、そこに乗ってくる」という流れの方が良い順序かもしれないと思って動いています。例えば20219月から立ち上がるWEリーグも、おそらく当初とは目論見が変わっているところがあると思います。これからCOVID-19(新型コロナウイルス 感染症)の影響が出てくる中、各リーグが単体で新しいことをやるのは難しい時代に突入しました。ですから、こうして複数の団体とアライアンスを組んで進めるのは、今の世の中に合っていると思います。

ご存知のように日本野球機構(NPB)とJリーグがコロナ対策で歩調を合わせています(新型コロナウイルス対策連絡会議)。以前には、こんな連携が現実にできるとは誰も思わないし想像もしなかった。いろいろなスポーツ団体、文化団体が、未曾有の時代にタッグを組んでいます。日本の縦割りの文化が少し変わってくるのかなと思います。

パイが小さいなら大きくすればいいじゃない、複数の種目を楽しむスポーツ文化へ

Woman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)がスタートする背景ですが・・・まず、各リーグの財務諸表と事業計画書を作りましょうということを日本トップリーグ連携機構でやっていました。「各リーグの決算書を出してください」から始まり、いろいろなリーグと話をしていたときに「プロ化したリーグと、それ以外のリーグの格差が大きい」ことが判りました。格差を埋めるために何をすべきかを検討しました。プロ野球は特別な歴史があり、サッカーは世界に広がっている競技なので、あのような事業スキームが立ち上げられたと思うのですが、ラグビーにしてもバレーボールにしても、リーグに参画している企業がリーグを支えている。そうすると、どうしてもリーグの規模を大きくできない。やはりマンパワーが足りない、良い人材が集まらないといった、様々な問題を抱えていることが露呈しました。これは各リーグが悪いわけではなく、競技人口や登録チーム数の影響があります。今後、競技人口や登録チーム数が増えていくための手段を考え、アライアンスを組む、連携をするというというところに、各リーグの皆さんの意見がある程度は合致してきました。一つの例ですが、日本には放映権ビジネスが単体で成り立っている女子のリーグが存在しないです。Vリーグでさえ、バレーボールの中継は男女があってDAZNで放送が成立しています。放映をしているリーグはありますが、それが権利ビジネスにはなっていないのが現状です。パイが小さいことによって権利ビジネスが無理なのであれば、複数の競技団体のリーグを一緒に合わせることで、そのパイを大きくしてビジネスのステージに立てるようにしていけばいいじゃないか・・・そのようなところからWoman Athletes Project(女性アスリートプロジェクト)は動き出しました。

—男子と違って、突出した規模のリーグや先行している競技団体があるわけではない女子から、各リーグが横並びでスタートを切れたと言う面があるのですね。女子から、新しい「競技団体の連携モデル」を作れる可能性があるのではないかと思いますが、どうでしょう ?

田口–こうした取り組みは、男子の競技団体の連携よりも広げられる可能性があると捉えています。ですから、女子から前へ踏み出しました。

 —FIFA女子ワールドカップ2019フランス大会では、米国女子代表をはじめとする選手たちから社会への発信があり、その後、日本では大滝麻未選手(創設者:ジェフユナイテッド市原・千葉レディース所属)、熊谷紗希選手(代表:オリンピック・リヨン所属)らが⼀般社団法⼈ なでしこケアを設立するというアクションがあったのですが、今回のプロジェクトの立ち上げの刺激や参考になったところはありましたか?

田口–私は、日本トップリーグ連携機構に来る前は日本女子サッカーリーグの専務理事を務め、FIFA女子ワールドカップ2011ドイツ大会の優勝から、その後のプレナスなでしこリーグの衰退までを見てきました。現状は、どんなにビジネスに長けた方がリーグ運営やなでしこジャパンの事業(JFA)をやったとしても、多分、あのままの盛り上がりをずっと維持することはできなかったです。今の日本のスポーツ文化と米国のスポーツ文化との違いが大きな原因です。米国はシーズンスポーツで、日本は年間を通して1つの種目しかやらないし、ファンは1つの種目しか応援しない、支えないことが多い。そのようなスポーツ文化になってしまっています(だから、各リーグ・競技を応援する、関わってくださる人数が限られている)。なでしこケアの活動や、プレナスなでしこリーグの衰退等を見て、これをどうにかして変えていかないと日本の女子スポーツは良くなっていかない。世界一になった競技ですらもこうなのですから、と思いました。ソフトボールも五輪で優勝しても、注目されるのはそのときだけ。このままだと、個人種目の選手しか注目されないし、女性アスリートは容姿や可愛らしさだけに注目が集まって五輪ごとに盛り上がるようなことを未来永劫に続けていってしまうのかなと感じました。僕たちが、なでしこケアのような活動に刺激を受けたのは事実です。ただ、小さな動きを大きくするには、僕たち競技団体側が動かないといけないと思っています。

 —チームや選手からの反応が少なかったのは自分ごとになっていないからでしょうか?

田口– まだ、具体的に何をやるかを、皆さんにお伝えしていないからというのもあります。これから、具体的にどのような行動をするかを、各リーグの皆さんに伝えていきます。その後で、選手たちに伝わっていくと思います。

課題はこれから選手の「自分ごと」になってくる

(参考資料)女性アスリート 850 人に行った事前アンケートの結果

全体として、女性スポーツの認知度の低さや就活・学業のサポートに対し課題を感じる人が多く、子どもがいるアスリートは育児・出産関連の悩み・課題を感じる人が多い。

※ 「非常に不安がある」「不安がある」と答えた人の割合

 

—アンケート調査結果をどのように捉えてアクションに結びつけようとされたのか教えてください

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