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女子サッカーは女子ラグビーの前を歩いているような 憧れの存在 ラグビー日本女子代表 平野恵里子選手インタビュー

「吉里吉里国(きりきりこく)」をご存知でしょうか。井上ひさしさんの小説『吉里吉里人』に登場する架空の国の名前です。小説『吉里吉里人』は、東北地方の小さな町が日本政府に愛想を尽かし、「吉里吉里国」を名乗り独立宣言する話です。モデルは岩手県上閉伊郡大槌町吉里吉里。入江に美しい砂浜が広がる地域です。入り組んだ地形のリアス式海岸で知られる三陸地方は険しい山に囲まれ、海に面した入江の集落が、昔から各々で独立した文化を育んできました。同じ大槌町でも、吉里吉里と山の向こう側にあたる大槌湾側に暮らす人々とは交流が少なく、別々の暮らしがありました。それゆえ、今でも、三陸地方独特の地域愛が育まれています。

三陸地方の地形(釜石市)

海外では、スペインが、地域愛のこだわりが激しい地域として知られています。スペインの中でも、バスク地方やカタルーニャ州は、中央政府(マドリード)との間で独立抗争が繰り広げてきたことが知られています。アンダルシア州も、近年まで独立運動の火種が燻っていました。サッカーファンにはお馴染みの話です。

今回、お話をうかがったのはラグビー日本女子代表でウニベルシタリオ・デ・セビーリャ・クラブ・デ・ラクビー・ココドリラス・ラクビー(セビージャ、現地ではココドリラスと呼ばれる)に所属する平野恵里子選手です。#女子サカマガ がなぜラグビー選手を? 今回は、もう一つのフットボールであるラグビーの向こう側から見たWEリーグへの期待をご紹介します。

平野恵里子選手は自己紹介で「吉里吉里出身」を名乗ります。あまり「大槌町出身」という紹介を好みません。三陸地方独特の地域愛があるのです。そんな平野恵里子選手が、今、暮らすのは、スペインのアンダルシア州セビージャの街です。ここまでお読みいただいただけでも、平野恵里子選手とセビージャの街はベストマッチングかもしれない気がしてきませんか。

セビージャ

平野吉里吉里に住んでいる人の多くは吉里吉里と大槌は別の街だと思っていますね。

平野さんは吉里吉里から大槌を通って釜石市のラグビースクールに通っていたのですか?

平野はい、そうです。私たちが釜石市のラグビースクールに通っていたときは、大槌町内から釜石市に通ってラグビーをしている子どもが多く、釜石市と大槌町はラグビーで強い関わりがあった印象です。

「U18花園女子セブンズ」の悔しさ、本気で日本女子代表を目指す

平野恵里子選手が世界を目指す決意をしたのは17歳のときでした。男女の7人制ラグビーが、2016年のリオデジャネイロ・オリンピックから種目に採用されることが発表されたのです。それを受けて日本ラグビー協会主催の「第1回セブンズアカデミー」が招集されます。オリンピックで勝てるメンバーを育成する、このプロジェクトに平野恵里子選手は加わり、花園ラグビー場で行われる「U18花園女子セブンズ」に出場したのです。

 

平野父は高校時代にラグビーを始めました。釜石市にはラグビースクールがあります。兄と私は吉里吉里からラグビースクールのある釜石市の松倉グラウンドまで通うようになりました。ラグビーでも(サッカーと同じように)兄弟がやっているから始めるという女子選手が多いと思います。世界を目指す決意は17歳のときにしました。私は「第1回セブンズアカデミー」に招集され、地元のテレビ局に取り上げてもらったのに「U18花園女子セブンズ」の大勢の観客の前で残念なプレーしかできず悔しかったです。見返してやりたいと思い、日本女子代表を目指そうと決心しました。

海外でのプレーを見据えたのはいつですか?

平野U18のころは海外でのプレーを想像していなかったのですが、父は私に「海外へ行きなさい」と、ずっと言っていました。海外へ行くきっかけは、私が参加した(女子)ラグビーワールドカップ2017 アイルランド大会(15人制)で日本女子代表が下から二番目の順位になったことです。歯が立ちませんでした。それで、大きい選手と戦うために海外でプレーしたいという海外思考が強くなりました。

そのとき、行きたい国の希望はありましたか?

平野ニュージランドかオーストラリアと考えていました。オーストラリアに縁を感じたので、2018年にオーストラリア(シドニーのワイリンガ・クラブ)に6ヶ月間、行くことになりました。行ってみたら、日本人と違う生活、練習、色々体験して、もっとラグビーを好きになったし、良い刺激を受けて帰ってくることができました。

現在はセビージャでプレーされています。なぜスペインに行くことになったのですか?

平野いくつか移籍候補のチームがあったのですが、一番、頻繁にコンタクトを取ってくれたチームだったので決めました。外国のチームからの返信は遅いことが多いのですが、このチームはすぐに返信してくれて信頼できると思いました。この選択が良かったか悪かったかは、まだわかりませんが後悔はありません。

提供:スポーツライター對馬由佳理さん(スペイン在住)

女子サッカーはファンとの触れ合いが活発になっていく感じがする

—WEリーグのお話に入ります。女子の団体競技のプロ化に興味を抱いたことはありますか?

平野WEリーグができることで、日本国内でハイレベルの試合が増えるし、選手にとってもファンにとっても、女子サッカーが身近なスポーツになると思いました。女子ラグビーのプロ化は想像がつかないです。女子ラグビーはアマチュアだけれど、選手を引退した後に食べていけるイメージが薄いです。子どもたちに「女子ラグビーで生きていきたい」という人がいるかもしれない。そういう子どもたちにとっては、ラグビーもプロ化されると良いと思います。

—WEリーグのビジョンについてはどう思いますか?

ビジョン
世界一の女子サッカーを。
世界一アクティブな女性コミュニティへ。
世界一のリーグ価値を。

平野女子サッカーは金メダルもとったし(FIFA女子ワールドカップ2011ドイツ大会優勝)……常に私たち女子ラグビーの前を歩いているような憧れの存在です。WEリーグのビジョンの中にある「コミュニティ」という単語から、ファンとの触れ合いが活発になっていく感じがします。

でも次の(女子)ラグビーワールドカップ2021 ニュージーランド大会で優勝すれば追いつきますね。

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