中野吉之伴フッスバルラボ

50人以上トップチームに選手を輩出したFCバーゼル育成アカデミーが追求しているクラブ哲学の在り方とは?

▼育成アカデミーからは50人以上がトップデビュー

2001年にザンクトヤコブパークに引っ越しして以来、FCバーゼルの育成アカデミー施設「カンプス」からは50人以上がトップデビューを果たしている。

その中にはバーゼルでの成功を足掛かりに、欧州トップレベルのクラブへと移籍をした選手も多い。バルセロナのイバン・ラキティッチはその代表格だ。他にも、ジェルダン・シャキリ、グラニット・ジャカ、ヤン・ゾマー、ブレール・エンボロといった選手の名前が思い浮かぶ。スイスきっての育成を誇っている。トレーニング見学後、アカデミー内の視聴覚室でバーゼルの「育成哲学」について簡単な講義が行われた。最初のテーマは今年新しく整理された育成哲学の中で核となる「トレーニングインテンシティ」についてだった。

●ハイインテンシティトレーニング(高負荷トレーニング)とは、選手がフィジカル的にもメンタル的にも全力で取り組み続けなければならない環境を作ること
●重要なのは、ゲーム形式のトレーニングの中でその環境を作り出すこと
●インテンシティを高く保つために大切なことは、プレー時間と休憩時間のバランス

このような内容がいくつも飛び出した。インテンシティが高いプレーを長時間連続してやり通すことは不可能だ。だから、インテンシティが高いプレーを高頻度で出せるように休憩をうまく取り入れながら、体を速やかに回復させて次に取り組むことが正解だし、選手の成長につながる。育成年代では、特にそれぞれの年代におけるフィジカル面とメンタル面のキャパシティに気を配るのが鉄則だ。

この日のトレーニングでも、非常に密度の濃い練習メニューが紹介された。子どもたちは足を止めることなく、常にアクションに絡み続け、相手が常にボールを奪いに来るプレッシャーの中でどのようにコントロールし、どのように解決策を見出し、どれだけ早く、どれだけ正確にそのプレーができるかにチャレンジし続ける。

一度のミスにいちいち凹んでる暇がないくらい、どんどん次のアクションにチャレンジしなければならない。声掛け云々の前に、まずオーガナイズが大切なのだ。そして、戦術的なミスや修正点が出てくると、指導者はスッと流れを止めて、問いかける。選手が頭の中を整理させるための大事な時間だ。ここで選手のミスを不用意に怒鳴りつけたり、自分が言いたいことだけをぶちまけたりすると、混乱するか、やらなければならない一つの形を強制するだけになる。

パートナークラブについても話があり、「最近は、パートナークラブからの選手があまり飛躍してこない」との指摘がされた。U13監督のベンヤミン・ミュラーは各世代のレギュラーをスライドで見せながら、「いかにバーゼル生え抜き選手ばかりがポジションをつかんでいるか」を熱く語った。

ただ、それはそうだろう。FCバーゼルの子どもは週に3〜4回ハイレベルのトレーニングを行っている。パートナークラブの選手は週に1回だけ。どうしたって差はつく一方だ。もちろん「別に批判というわけではない」と言っていたが、だからといって、「パートナークラブの在り方を抜本的に変え、互いにウィンウィンの関係になるように取り組んでいきたい!」という意欲までは感じられなかった。このあたりはSCフライブルクの緻密で親密なコーペレーション関係とは一線を画す。

でも、それも仕方がない。少なからずバーゼルはスイスNo.1クラブだ。スイス中の子どもたちがこのクラブでプレーすることを夢見ている。選手同士を比較し、競争させ、その中で才能を発揮していく子どもたちをセレクションしていくというやり方が可能な環境にあるわけだから。

スイスという国の立ち位置も考えてみた。列強国に囲まれたその国が目指すのは、世界一でもなければ、ヨーロッパNo.1でもない。それはバーゼルにも当てはまる。スイスの盟主になり続けることはできても、CLで優勝というのはあまりにも高すぎる目標なのだから。狭い国土と決して多くない人口から最大限のものを可能にするためには、高すぎる目標は逆に足かせになる。

彼らに必要だったのは、飛びぬけた才能を持つ個の誕生に頼らず、高いレベルの選手を集約できるシステム作りなのだ。タレントは作り出そうと思って作り出せるものではない。継続的に高水準で国際舞台で戦い続けるためには、チームとして戦い抜ける選手、その中で自分なりの特徴を出せる選手を輩出しつづけることが大事だったのではないかと推測する。そうした「現在地が分かった上での現実的な夢の設定」ができたからこそ、彼らは欧州の強豪になれたのだろう。

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