中野吉之伴フッスバルラボ

ドイツで考えられている育成指導とは?「いいサッカーをすることは大事だろう。でも、それより大事なのは社会性の成長だ」

▼アンディ「日本のクラブやチームだと、お父さんがコーチをしたりというのはないのか?」

キチ「もちろんあるよ。でも、ジュニアチームだけの気がするな。ジュニアユースやユースでお父さんコーチがやっているというのはあまり聞かない」

アンディ「指導者養成に関してはどうなんだ? DFBがやってるみたいのは?」

キチ「あるよ。そもそも日本の指導者育成システムはドイツのそれを手本にしているから。でも個人として思うのは、日本は同じような指導者を育成しようとしてるんじゃないかなという点なんだ。コピーというと言いすぎかもしれないけど、同じような内容を、同じような口調で、同じようなジェスチャーで伝えていくことを求めている気がする。

というのも、ある講習会でインストラクターが『今回の指導者要項から外れたような指導はしないでください』ということを要求したという話を聞いたことがある。私自身もあるトレーニングを見学したときに感じたんだけど、なんだかロボットがやっているようなトレーニングだったんだ」

アンディ「なるほど」

キチ「内容は指導者要綱に沿っているかもしれない。でも、感情が感じられなかったんだ」

アンディ「トレーニングも仕事もマニュアル通りにはいかないことが多い。フレキシブルさは大事だろう。その場の状況にいかに対応できるのか。それこそが求められるところだよ」

キチ「アンディはそもそもどういうふうに指導者になったの?」

アンディ「そうだなぁ。私は8歳からサッカーを始めたんだ。ずっと、このクラブでサッカーをやっている。もう40年以上ということになるな。小さい頃は誰かのお父さんがコーチをしていた。U15以降だと、その年代をずっと教えている指導者がいて、いろんな指導者のもとでサッカーをやってきた。17歳の時、私は飛び級で成人チームに加わるようになったんだ。190㎝と身長があったし、ヘディングには自信があったからね。成長も早い方だったから、育成から大人のサッカーに慣れるのにも、そこまで時間はかからなかった。当時は『指導者育成』の環境は全然整っていなかった。

私たちが言われていたのは、『情熱的にプレーをしろ』、『1対1に負けるな』と、そういうことばかりだった。幸運だったのは、成人チームの監督は指導者ライセンスを持っている人だったんだ。私たちは8部リーグでプレーしていて、そのときは最後まで7部リーグへの昇格チャンスがあったんだけど、1位が自動昇格、2位が入れ替え戦で、惜しくも3位で終わって昇格はできなかった。

それからもサッカーをずっと続けていた。サッカーをするのは本当に楽しいし、大好きだったからね。学校で大事な試験があったり、兵役に行ったりもしたけど、それでもサッカーを続けていた。大学は車で2時間以上離れた町『コンスタンツ』にあったんだ。木曜日の午後に家に戻って夜の練習に参加して、日曜日には試合に出て、またコンスタンツに戻って、という生活を送っていたんだ。さっきチームに通うのが日本だと大変といっていたけど、古巣クラブに通うのはちっとも苦ではないんだ。いや、通うところじゃないんだ。俺にとってここは、戻るところなんだよ。

しばらくしてから審判もやっていたんだ。息子もやっているけどね。どのクラブも審判は常に探している。審判も興味深かったけど、やっぱりプレーしている方が楽しかった。リーグで優勝したこともあるし、昇格したこともある。さすがに時間が取れなくなって、審判は長くは続けなかったんだ。そのうち、年齢的なこともあって競技サッカーからは足を洗う時期が来た。それが33歳かな。でも、それからもオーバー30チームでプレーは続けていたよ。週1回みんなでミニゲームをして、時々試合もして。

指導者になったのは息子のフィリップがボールを蹴るようになって、そのチームの指導者を『誰かできないか?』という話になったときに引き受けたことがきっかけだよ。それからずっと続けている。長い間やってきたけど、鮮明に覚えているのはSVバイラータールとFCアウゲンの育成部が共同チームを持つようになったときだね。共同チームになって、最初の年はU13に25人の子どもがいた。子どもたちが多いから2チームを登録したんだけど、両方とも私が見ていたんだ。つまり週に2回のトレーニングと週末に2試合をこなすということだ。大変なことも多かったけど、忘れられないとても素敵な時間だった。子どもたちはみんなサッカーが大好きで、いつもトレーニングにたくさんの子どもが来て、サッカーを満喫していたんだ。トレーニングをして、週末に試合をする。みんながだよ。それにいいサッカーもしていた。SCフライブルクに勝ったこともあるんだ」

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