久保憲司のロック・エンサイクロペディア

U2 『ニュー・イヤーズ・デイ』 その頃、北アイルランドは戦車が家の前を通り、人が軍隊に撃たれ、爆弾がそこら中で爆発していた(久保憲司)

 

明けましておめでとうございます。

 

僕はエコバニ・ファンだったので、U2は世界一ダサいバンドだと思っておりました。映画「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」にも出てくる、あのいじめっ子の髪の毛、いじめれっ子たちが陰で「世界一ダサい髪型」と言っているのが、U2のボノの髪の毛です。

70年代後半から80年代前半で、あんな髪の毛をしていたのは美容師だけです。日本だと美容師はカリスマと言われていますが、イギリスだと一番ダサい職業の一つなのです。もちろんオシャレなヘアー・ドレッサーもいます。モリッシー、ニュー・オーダー、ジョニー・マーの髪を切っていた奴なんかはむっちゃオシャレと思われてました。名前忘れてしまいました。すいません、ハシエンダで美容院やっていたんですけどね。僕はロンドン子(なんてね)だったので、マンチェスターのヘアー・ドレッサーなんてダサいと思ってました。今から考えると一度くらいは切っておいてもらったらよかったなと思います。でも、あのジョニー・マーの前髪たっぷりな髪型かっこいいですかね。バーニーのナチの親衛隊カットカッコイイですけどね。ナチと言ったらダメですよね。GIカットと言っとけばいいですかね。今一番流行っている髪の毛でもあります。今、男は美容院より理髪店、バー・バーが復活してますからね。

そうそう、美容師ヘアーのダサいミュージシャンといえば、スティーブ・ジョーンズです。あの髪型も美容師スタイルなんです。あんな髪型のミュージシャンいないでしょう。最高のパンク・バンドのギターリストが美容師ヘアーって笑うでしょう。「周りからその髪型やめろ」と言われていたのですが、本人最後まで止めなかったです。日本でいうとずっと角刈りとかパンチ・パーマ当てていたようなものです。本人はあの毛で女性にモテると思っていたんでしょうね。

多分スティーブのイメージは映画「シャンプー」の世界なんです。「シャンプー」の世界だと美容師は女性(お客さんの有閑マダムですが)にモテるので、俺もそれがいいと思ってたんでしょうね。日本でいうと美容師さんやスタイリストがお客さんを安心させるために、ゲイ言葉でしゃべっていたのと似ています。日本に帰って来た頃、美容師さんやスタイリストさんがオネエ言葉でしゃべっていたので、「あの人ゲイ?」と訊くと、「違うで、むっちゃ女好きやで」というのでびっくりしてました。こんな人たちもういなくなりましたね。

新年から何の話をしているのでしょう。すいません。U2の話でした。僕はずっとU2はダサいやつ、説教好きの暑苦しい奴と思っていたんですけど、実はそんな歌歌っていないんです。U2の歌というのは全部どうしたらいいんだろうという歌が多いのです。

それは多分、先の全く見えなかったアイルランドと北アイルランドの状況の中でこうすべきだと歌う勇気なんかないと思います。北アイルランドは戦車が家の前を通り、人が軍隊に撃たれ、爆弾がそこら中で爆発していた中、ボノの生まれたアイルランドは北アイルランドほど状況は深刻ではないが、お父さんがカソリックで、お母さんはプロテスタントという違った宗教同士で結婚して、味方なんか誰もいない中で過ごした少年時代、どうしようもないとしか思えなくなるでしょう。

唯一彼が力強く歌う歌は「ワン」だけです。一つになる。答えは分かっている。他の曲はその周りでどうしたらいいんだろうと歌う曲です。

 

 

ニュー・アルバム『スングス・オブ・エクスペリエンス』の「ゲット・アウト・オン・ユア・ウェイ」もそういう歌です。今のアメリカの状況は自分の殻から抜け出さないと何も変わらないだろうと歌っています。リンカーンが言ったように「南と北が戦争している状況で国家が成り立つのか」そう、今の状況とリンカーンの頃と何も変わっていないのです。民主党と共和党が反発している状況で約束の血にたどりつけるのだろうか?そのためには「ゲット・アウト・オン・ユア・ウェイ」するしかないのだと歌っているのです。

アウトロがケンドリック・ラマーでマタイの福音書のキリストの八福の教えをパロってラップしていますが、これ聞いているとU2しか世界を救えないという感じになりますね。そして続けて始まる“アメリカ、お前はそんなんじゃないだろう、ロックンロールを生んだ国だろ”と歌う「アメリカン・ソウル」が始まる。興奮します。

 

 

 

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