久保憲司のロック・エンサイクロペディア

エクスタシー・カルチャーの到来を予言したアルバム『ザ・ストーン・ローゼズ』全曲解説(1)

 

89年にリリースされ、世界のヤング・カルチャーに影響を与えたストーン・ローゼズのデビュー・アルバム『ザ・ストーン・ローゼズ』の全曲解説です。

世界にっていうのは大袈裟か、ヨーロッパだけかな、いや90年代からミレニアムに向かって大爆発したエクスタシー・カルチャーの到来を予言したアルバムとして重要なのです。

「エクスタシー文化って何や、沢尻エリカか」とほとんどの方から突っ込まれそうですけど、ドイツのラブ・パレードと言うデモに100万人近くの人が集まるようになっていたのです。このラブ・パレードは、2010年に人が溢れて21人もの圧迫死を出す大惨事として幕を閉じます。

ラブ・パレードというイベントがデモだと言うのびっくりしたでしょう。そうなんです、あのイベントはデモで申請されていたのです。はじめは150人くらいでやっていたのが、100万人という人数に膨れ上がったのです。その150人と言うのはエクスタシーを食って、こんないいものはたくさんの人に広めないといけないという革命に目覚めた人たちなのです。88年のイギリスでそう言うことが起こったのです。そして、その使命を心に秘めて作られたアルバムが『ザ・ストーン・ローゼズ』なのです。

20周年の記念盤のクレジットには、ファンとエクスタシーに御礼を捧げてます。それを見て僕はビートルズが『ラバー・ソウル』と『リボルバー』のクレジットに“ありがとうLSD”と書いたような衝撃を受けました。ビートルズは絶対そんなことしないですけどね。

今エクスタシーを食ってももうそんなことは起こりません。だから沢尻エリカはやらずに、エクスタシーの錠剤をお守りみたいに後生大事に持っていたのでしょう。警察の検査でも陽性反応は出なかった。今のエクスタシーはそういう存在なのです。別にやらなくってもいいもの。沢尻さんは自分の誕生日にやろうととってたのかもしれませんけど。88年にLSDを食っても何も起こらなかったのと同じです。でも88年から94年くらいにエクスタシーを食った人に何かが起こったのです。100万人もの人を集めるまでの何かがあったのです。正確にいうと2000年を少しすぎるくらいまでエクスタシーは若者文化に影響を与え続けてました。

LSDが67年くらいから始まって、ウッドストック、ストーンズのオルタモントの悲劇で終わる69年まで2年くらいしかサブ・カルチャー、カウンター・カルチャーに影響を与えなかったことを考えると、エクスタシーはなかなか不思議なものだったなと僕は思うのです。

『ザ・ストーン・ローゼズ』はそんな不思議なドラッグ、エクスタシーをやった1日をロック・オペラにしたようなコンセプト・アルバムです。

 

1曲目「アイ・ウォナ・ビー・アドアード」

ロックの名盤と呼ばれるアルバムでこんなにゆっくりと始まるアルバムがあったでしょうか。なぜこんなにゆっくりと始まったか、それは歌詞の通り、憧れたい、俺は何者かになりたいという思いなのです。再結成の時にこの長いイントロのベース・ラインを6万人が大合唱をしているのを聴いて、こいつらどんなにバカなんだと感動しました。そのバカとは“俺は何者かになりたい”ということなのです。そして、このアルバムは“何者か”になりたいということを探求していくアルバムなのです。そしてオアシスはその答えとして“ロックンロール・スターになりたい”“タバコとアルコールだけあれば満足なのさ”というアルバムを作るわけです。

 

 

2曲目「シー・バンクス・ザ・ドラム」

ボブ・ディランの「ミスター・タンブリマン」と同じことを歌っている歌った。「ミスター・タンブリマン」がLSDをやって“俺は俺のパレードを歩いて行く”と歌って、ウッドストックに繋がるヒッピーの群れを予言したように、「シー・バンクス・ザ・ドラム」も俺は俺の道を歩いて行くということを歌にし、この後ラブ・パレードに100万人も集める文化を予言しているのです。

 

地球が動き出したのがわかった
俺のレコード針が俺の心に刺さった時に
今までのこんがらがった人生はもう別の日の問題
俺の歌がこう歌うんだ
“俺のケツにキスしな”と
過去はお前のもので、未来は俺のもの
お前ら時代遅れなんだよ

「シー・バンクス・ザ・ドラム」

ひやー、かっこいいでしょう。エクスタシーやって、今までの過去を全部否定するんです。ヒッピー、古すぎるだろ。パンク、ダサいだろ。ポスト・パンク(この頃はポスト・パンクって言葉はないので、インディですね)、頭でっかちすぎるだろ。ブレイク・ダンス(ヒップホップはこの頃イギリスででかくなかったので)、ロボット踊ってろ、みたいな感じです。カルチャーやファッションは全部否定するけど、ジミ・ヘンドリックスやスライなどの過去の音楽には尊敬の念を忘れていない、それがストーン・ローゼズのかっこよさなのです。

 

 

次のラインの

足元がしっかりしてない
空虚な感じ、俺は弱ってる

というフレーズは「ミスター・タンブリマン」の

手の感触がない、足が麻痺してる
俺のブーツがさまよっているのを俺は見てる

の真似をしているんでしょうね。

 

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