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【SIGMACLUBNEWS】「2018年の悲劇」の再来を回避するべく、得点源をつくれ

もう、FC東京戦の快勝劇に酔っている場合ではない。2018年を思い出せ。

第25節・対鹿島戦、広島はホームで見事な逆転勝ちをおさめた。この時点で、2位川崎Fとの勝点差は9。残り9試合、上位対戦はFC東京と札幌が残っていたが、彼らとの差は13ポイントと14ポイント。他は中位から下位に沈んでいたチームとの対戦ばかり。優勝という栄光は、広島の手の中にあったはずだ。

しかし、そこからの広島は1勝もできない。9試合で積み上げた勝点はわずかに2。それでも2位を確保できたのだから、どれほどの貯金があったかということではあるが、優勝という高みには辿りつけなかった。

どうして、そうなったか。

理由は簡単である。得点がとれなかったからだ。9試合6得点。完封された試合が9試合で5試合。そこまで堅守を誇っていた守備も、得点ができない状況に我慢できず、9試合16失点と崩壊してしまった事実も記録していないければならないが、その要因をつくったのはやはり得点がとれないという現実だ。得点に自信があるのであれば、守備は落ち着く。我慢もできる。少なくとも2018年の広島は、そういうチームだった。

では、どうして点がとれなくなったのか。それは「パトリックシステム」の崩壊である。

2017年、残留争いに巻き込まれた広島。新監督に就任した城福浩は現実的なサッカーを構築。稲垣祥と青山敏弘、強度の強い守備ができるボランチを軸にすえ、最終ラインには佐々木翔・水本裕貴・野上結貴・和田拓也という守備の強さを誇る選手たちを並べた。堅守で失点を極限まで防ぎ、そして超人的なフィジカルを持つパトリックに点をとらせる形を徹底。一時は平均失点0点台を続け、パトリックの破壊力で得点を重ねて勝利する。その方程式によって驚異的とも言える勝ち点を積んだ。しかし、その「パトリックシステム」はワールドカップ中断の間に徹底的に研究された。それでも中断明けから暫くはなんとか踏みとどまったが、パトリックのフィジカル能力が疲労と膝の状態悪化によって衰え、スプリントも一番いい時の30回から10回前後にまで落ちてしまった。それによって彼の得点能力が落ちてしまい、9試合1得点という絶不調状態に陥った。

それはパトリックの責任というよりも、2人目の得点源をつくり出すことができなかったチーム戦略の難しさによるといっていい。パトリックの得点を逆算して攻撃をつくっているのだから、得点源を他に求めるのは、そもそもが難しい。J1残留を確実なものにしたあと、チームスタイルを少しずつ変えていく目算が、驚異的な快進撃によってスタイルチェンジのタイミングをはかれなかった。それが現実である。相手にしてみれば、パトリックさえ抑えれば、それでよかった。それでも彼の肉体が万全な時はわかっていても抑えられなかったが、落ちてくれば対策が功を奏する。

2019年、城福監督は繋ぐサッカーにスタイルをチェンジし、5連勝5連敗という浮き沈みがありつつ、湘南戦から9戦負けなし。順位も4位にまで浮上させた。勝ち点も39。J1残留の目安となる40ポイントまであと1ポイントまで迫った。「ケガ人続出の前半、よくもちこたえて勝ち点を積み上げた」と指揮官も述懐するように、開幕からの7試合負けなしを支えた若者たちの活躍は、本当にチームを救った。

ただ、ここからは上を目指す戦いとなる。FC東京戦の快勝劇に酔っているようでは、昨年の鹿島戦後の二の舞に陥りかねない。

今年は既にスタイルチェンジを果たした。守備に軸足を置くというよりも、まず自分たちの主体的なサッカーを展開して、主導権を握って攻撃を組み立てる。そういうスタイルに変化しているからこそ、チーム得点王がワイドアタッカーの柏好文になっているわけだ。

ただ、当然のことながらこれからは、広島のスタイルは研究される。連動性や機能性はまだまだ成長できるとは思うが、相手はそういう組織的なプレーには目もくれず、ただゴール前を固めてくる可能性がある。FC東京の美しい組織守備のような洗練ではなく、もっと泥くさく、もっと現実的に守備を固めてきた時、果たして相手を攻略できるだろうか。FC東京戦ではシュート2本。「もっとシュートまで持っていきたかった」と城福監督も課題を指摘する。得点源の柏好文、チーム内アシスト王の森島司が創る左サイドは、これからもっとマークが厳しくなる。ハイネルという破壊力が右サイドには存在するが、彼を使う柴崎晃誠はまだまだケガからの復帰に時間がかかりそうだ。

だからこそ、城福監督はレアンドロ・ペレイラの戦力化を急ぐ。

21日のトレーニングで指揮官は、4-4-2や3-5-2、つまり2トップのオプションを徹底して練習した。FWはレアンドロ・ペレイラ、ドウグラス・ヴィエイラ、そして渡大生。トータル4本のトレーニングでは、レアンドロ・ペレイラがすべて主力組に入り、ドウグラス・ヴィエイラと渡が交代で入る形に。トレーニング前、「オプションを試す」と監督が語っていたように、スタートからこの形に持っていくことは考えられない、あくまで得点をとりにいくためのフォーメイションである。その中で、新戦力は1度も主力組から外れなかった事実は、指揮官の「少しでも早く、チームに馴染んでほしい」という思いの表現である。

「それはもちろん、レアンドロ(ペレイラ)に我々の要求に対する理解度を高めてほしいし、一方で周りの選手にも彼のストロングや形を理解してほしいから。時間が味方になるというか、同じ時間を共有してほしいから」

筆者は当初、レアンドロ・ペレイラの守備意識を高めたいという目的もあるのか、と思った。しかし、その味方を指揮官は決して否定はしなかったが、狙いはむしろ攻撃にあるという。

「守備から入るのなら、(レアンドロではなく)他の選手の方がいい。2トップは攻撃の機能性を高めないと意味がない、それはチームとして2トップを機能させないといけないし、2トップ自身も機能させようとしないといけない。そうでなければ、デメリットの方が大きいんです」

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