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【2020紫熊の戦士】浅野雄也/切り札候補ナンバーワン

兄弟だからといって、殊更に比較するのは好きではない。筆者は4人兄弟の長男で、活発な弟といつも比較されて生きてきた。弟もまた、兄の筆者と比較されてきただろうし、どちらも気持ちよくなんかはない。

この世の中は常に、比較からは避けられない。旧約聖書の「アインとカベル」、日本神話の「海幸彦と山幸彦」の例を見るまでもなく、兄弟は特に並べて書かれ、対立の構図をつくりだされる。日本史でいえば、源頼朝と源義経、足利尊氏と足利直義の例だけでなく、織田信長も実弟の織田信行を自らの手で殺さざるをえなかったという「事件」もよく知られているが、家督争いで兄弟が骨肉の争いを演じることは歴史的に見ても珍しいことではなかった。

サッカー界の代表的な兄弟選手である森﨑和幸と浩司の双生児も、プレースタイルは違えど2人の間には強烈なライバル意識が存在した。どちらかが代表に選出されれば、どちらかが試合に抜擢されれば「どうして俺じゃないんだ」と悔しさを増幅させる。2人の成長は、もっとも身近な存在が強烈なライバルだったからこそ、とも言える。だが、それはどちらかというと幸運な例なのかもしれない。偉大な兄や活躍する弟をもったことで、逆に本来の能力を発揮できなくなるケースも決して少なくないからだ。

自分自身の経験もあり、また兄弟選手たちの傾向も知っているからこそ、浅野雄也に対して兄・拓磨の話題はなるべくこちらから振ろうとはしない。だが、そんな気遣いなど、雄也に対しては不要である。彼は自分から、拓磨のことを口にするからだ。特に秀逸だったのは、記者会見での29番のくだり。「(兄と同じ番号で)最悪と思ったが、タクのサポーターを自分のファンにできるかもしれない」と言った(要約)、あの台詞である。

「頭がいいんだ」

正直、そう思った。

黙っていても、誰もが拓磨と関連付けたくなるのは、わかっている。だったら、それを自身のアピールポイントにしてしまえばいい。意識的に彼がそうしているのか、それとも自然とそうなっているのか、それはわからないが、浅野雄也は拓磨に対しても常に自然体を貫く。一緒に兄の動画にも出ているし、拓磨がゴールを決めれば「ちょっと、むかつきますよね」と笑顔で言う。そうやって雄也は、兄のことをやりすごす。実にクレバーな対応だと考える。

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