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【SIGMACLUB立ち読み版】東俊希ロングインタビュー/僕は逃げない

試合になると活躍できる、しなやかな強靱さ

 

もしコロナ禍がなくシーズンが続いていたとしたら、果たしてどうなっていただろうか。ルヴァンカップ・横浜FC戦と開幕の鹿島戦を見るかぎり、チームのパフォーマンスが数ヶ月の間に落ちることは考えられない。特に前線3人(レアンドロ・ペレイラ、ドウグラス・ヴィエイラ、森島司)の好調は維持できたのでは、と考えていいだろう。

サッカーのようなチームスポーツにおいて難しいのは、新しい人材の投入チャンスが多くの場合、チームの調子が下り坂になった時に限られるということだ。野球の場合はまだ、控え選手に対するチャンスの数はサッカーと比較すれば格段に多いから、チームが好調を維持していても新しい戦力が育ちやすい。しかし、サッカーは本質的には好調時はチームをいじらない。

もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大によってサッカーを奪われたことは、急成長期にある若い選手たちにとって大きな痛手である。試合だけでなく練習もできない状況は、若者にとってはネガティブ要素しかない。

しかし、7月4日のリーグ再開後、強烈な連戦を戦わないといけないことは明確。J1リーグ戦の最終日が1219日(土)。計算すると、25週間で33試合を消化しないといけない。つまり単純に計算しても8試合はミドルウイークで行われる計算になる。それに加えて、ルヴァンカップはグループステージが残り2試合、プライムステージが決勝まで3試合で最大5試合。カップ戦とリーグ戦で最大38試合を25週間で消化しないといけない。

シーズンが始まってしまえば強化という意味でのトレーニングはできず、調整で終わってしまいがちになることは、やはり若者には不利益だ。しかし、開幕戦に出場した「主力」が全員、34試合全てにフル回転できるかというと現実的には無理。選手全員が稼働しないと物理的に戦えない。だからこそ、Jリーグは1試合の交代人数を5人までに拡大したのだ。

そうなると、話は変わってくる。東俊希をはじめとして若い選手たちのチャンスは広がってくるのは火を見るより明らかだ。新型コロナウイルスの感染拡大は、もちろん社会的にもサッカー的にも痛手である。だが、物事をマイナス方向ばかりに見ても、人生は豊かにならない。今回の感染症によるマイナスを自分のプラスに変換する。そんなメンタリティーを持てた選手が、成功者の道を歩くことができる。

東俊希はおそらく、サクセスロードを歩く若者の有力候補である。彼のメリットは何か。もちろん、能力的には非常に高い。伸びしろも感じる。だからこそ城福浩監督は開幕戦のベンチに入れ、途中出場を命じた。ただ、本当のメリットは、彼のメンタルの強靱さにある。

東俊希がプロの公式戦にデビューしたのは、2018年の天皇杯、まだ高校3年生の時だ。相手は名古屋グランパス。J1のチームである。

広島ユースでもほとんどやったことのないポジションである4ー4ー2のサイドハーフに入った東は、初めてプロでプレーするとは思えないほどの堂々たるプレーを見せて度肝を抜いた。

セットプレーのキッカーとして何度もチャンスをつくり、後半にはベリーシャの決定的ヘッドを導く高速クロスも。

プロの公式戦に初めて出場し、全く臆することなく戦った高校生は、森﨑和幸、髙萩洋次郎、そして東俊希くらいしか覚えがない。

高円宮杯プレミアリーグWESTの優勝がかかった名古屋Uー18戦でアシストを連発して勝利に貢献し、チャンピオンシップでは鮎川峻の先制ヘッドを誘発する美しいクロス。広島ユースの優勝に大きく貢献してプロ入りを果たした東は、2019年にはACL対メルボルン・ビクトリー戦、本田圭佑の目の前で先制ゴールを叩き込む。

天皇杯・対沖縄SV戦と金沢戦で得点を決め、磐田戦ではリーグ初アシストも記録した。さらに年末、初めて招集されたU-22日本代表の試合では直接FKでのゴールを含む1得点1アシスト。見事と言っていい。

大舞台で自分の力をしっかりと発揮できる。少なくとも練習どおりの力を発揮できる若い選手は、そうはいない。カズや髙萩が若い時期から試合に出ていたのも、トレーニングと同じクオリティを試合で発揮できるメンタルの強さを持っていたから、計算が立つ。

東俊希も同様のタイプである。例えば今季の開幕となった鹿島戦、森島司が見事なシュートを決めたチームとしての3点目は、東の素晴らしい守備から生まれた。

ボールを持った相手に対してプレスに行き、1度はかわされても諦めずにボールをとりにいった。その結果として足にボールをひっかけ、レアンドロ・ペレイラに繋がった。ここからのショートカウンターから森島のゴールは生まれたのだ。今季、城福浩監督が掲げた一つの攻撃の形を、東俊希という若者が体現して見せたのだ。

「守備の時に足が伸びるようになって守備範囲が広くなったことはキャンプの時から感じていたから。それが試合で発揮できたことはよかった。

守備そのものは、難しかったんです。とにかくいいポジションをとろうと一生懸命だった。正直、ああいうプレーは得意ではなかったんだけど、2ー0というスコアもあって、相手が僕のポジションからは守備にこないだろうと考えていたように思うんです」

SIGMACLUB初となるZOOMでのインタビューで、東俊希は照れ笑いを浮かべながら答えてくれた。

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