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エゼキエウ、覚醒か/広島3-0横浜FC

まぎれもなく、川辺駿のゲームだった。

もちろん、サッカーにおいて最も難しい「チャンスを決める」をやりきった浅野雄也や柴﨑晃誠は称賛に値する。前半45分のパス成功率94%というインサイドハーフの選手としては信じがたい数字を残した森島司も見事だ。

だが、マン・オブ・ザ・マッチは誰かと問われれば、迷いなく8番。紫のアンカーを選出したい。攻守において、圧巻という言葉しか出てこない。誰が見ても、この試合の中心には川辺駿がいた。

そういう原稿を書こうと思ったら、サッカーダイジェストの志水麗鑑記者が、川辺を取り上げてくれている。彼は横浜FC戦をしっかりと現地で取材しているし、記事の中で稲垣祥に対して的確な評価を下している。「見る目」については信頼していい記者だ。なので、今回の川辺については、まず彼の記事を読んで頂きたい。SIGMACLUBでは、改めて彼に話を聞いて原稿にしたいと思う。

というのも、実はもう1人、マン・オブ・ザ・マッチでもいいと思える選手がいたからだ。

エゼキエウである。

今、Jリーグの試合後取材では、監督の他に選手は2名しかインタビューは許されない。しかも共同で、個別は無理。そういう場合、多くは得点者がインタビュー相手として選出されることが多い。クラブがインタビューされる選手を指定してくることも少なくないが、広島の場合は担当記者の意見を尊重してくれる。そういう意味ではありがたい。ただ、前述したように共同インタビューなので、自分の個人の思いを押し通すわけにはいかない。

もし、一昨年までのようにミックスゾーンで話を聞けたとしたら、もちろん浅野や柴﨑、川辺や森島の言葉は欲しい。あと、サイドバックの野上結貴や東俊希も。だが、最優先してどうしても聞きたいのが、エゼキエウだ。

確かに得点をとったわけではない。しかし、来日以来、最高のパフォーマンスを見せたのではないか。広島の4-1-2-3を機能させた立役者といってもいい。

何がよかったか。

この試合、エゼキエウは左ウイングで先発した。前節、ジュニオール・サントスが務めた場所だ。だが、サントスのプレーとエゼキエウが見せたものは、大きく異なっていた。

ジュニオール・サントスは幅をとろうとタッチライン際に張り付いていた。だがエゼキエウは、幅をとる一方で中に入りもする。6分のシーンを見ても、エゼキエウは中央にポジションをとって相手のボールホルダーを監視し、そこから広島の左サイドに向けてボールが出ればスプリントで戻っている。ボールがない時のポジションも絞り気味で、ドウグラス・ヴィエイラや森島司らとの距離感を重視していた。

これはおそらく、チームとしての修正だろう。右サイドでボールを持っている時、左サイドバックの東俊希も中央にポジションをとり、左右にギュッと圧縮されたコンパクトさを保っていた。

その流れの中にエゼキエウがいたのだが、この戦術的な修正が、彼の能力をおおいに引き出した。これまで個人プレーヤーだと思っていた14番が実は、組織の中で力を活かせることを証明したのである。

8分、エゼキエウがタッチライン際でボールを持つ。ライン際でドリブル。切り返す。

この時、横浜FCの選手はエゼキエウの縦突破を警戒し、サイドハーフのジャーメイン良が下がって彼を監視し、その後ろにサイドバックの岩武克弥がいた。だが、エゼキエウはここで中へのドリブルを選択し、ジャーメインやボランチの安永玲央を引きつけて、森島司にパスを出す。10番がダイレクトでサポートしていた東にパスを出すと、エゼキエウはそのまま中に入った。

このことによって東には選択肢が複数、生まれる。エゼキエウに出してもいい。1つ先の柴﨑晃誠、あるいは森島に出してもいい。一方で横浜FCは的が絞れず、守備に強くいけなくなった。

柴﨑から1タッチで前に。ドウグラス・ヴィエイラが1タッチ。パスの受け手は中に絞っていたエゼキエウだ。彼もまた1タッチで柴﨑の走る先にスルーパス。そこはDFが察知してスライディングしながらカットしたが、通っていれば決定機。

ただ、大切なのはこの後だ。エゼキエウはパスが通らなかったとみるや素早く切り替え、相手のボールホルダーに鋭くプレッシングをかけにいったのだ。それによって相手は効果的なパスを出すことができず、エゼキエウのプレーを見て予測を働かせた浅野雄也や野上結貴らによってボールの奪回に成功。決定的なシーンまでつなげることはできなかったが、横浜FCを自陣深くに押しこむことに成功した。

エゼキエウは、「ウイング」という概念から解放されていた。まさに変幻自在に、タッチラインとセンターを往来していた。それは自由に見える。だが本質は、東俊希と森島司、左サイドを構成する若者たちを信頼し、彼らとの関係性を重視しようとした結果だった。

11分、エゼキエウは森島にボールを渡して東俊希のインナーラップを引き出した後、今度はタッチライン際から一気にドリブルで中に切れ込み、シュートとクロスの中間のようなボールでGKを脅かした。

エゼキエウが中に入ると、森島が幅をとり、東がサポートする。その逆もある。前節はジュニオール・サントスの個人突破ばかりが目立った広島の左サイドが、組織としての機能性を持っていた。特に、ドリブルばかりが目立っていたこれまでのエゼキエウがその組織的なプレーの中心になっていたことには、驚きしかなかった。

昨年までのエゼキエウは、スピードとドリブルが目立っていたが守備の意識は低く、切り替えも遅かった。どうしても彼のところから水漏れがしてしまい、決定的なカウンターも食らったりした。

だが、彼の資質的には守備もできる選手なのだ。鹿島戦、1対1の強さを見せ、何度もボールを奪っている。強靱な身体を持ち、相手にぶつけられても身体の軸がぶれない。守備のスキルを身に付ければ、大きな成長を見せることができると思っていた。

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