今津佑太/最後の最後まで、練習を続ける男の存在
突破してゴールを目指すジュニオール・サントス。絶対にやらせないと意気込む今津佑太。
やってやる。やらせない。
絶対に勝つ。絶対に負けない。
2人の意地、2人の想い、プライドが火花を散らす。
ジュニオール・サントス、得意の緩急をつけたドリブルは、J1でも類を見いなスケール。Football Labのドリブルチャンス指数では金子拓郎(札幌)についで第2位。
スケール感たっぷりのドリブルに、今津は必死にくらいつく。
27番が最も得意とする深い切り返しが出るか。
わかっていても、やられてしまうジュニオール・サントスの18番。
今津、対応できるか。対応しなければ、やられてしまう。
いや、切り返しと見せかけて、アタッカーはスペースにボールを出してきた。今津、カットできない。
守る側にとっては、本当に厳しい。しかし、やらねばならない。
絶対に止めないといけない。
ジュニオール・サントスはスピードもある。だが、単純な速さだけなら、今津も屈指だ。
裏をとられそうになっても、諦めない。
最後まで、最後まで、食らいつく。
闘う姿勢を絶対に失わない。
チャンスがある限り、気持ちは切らさない。
今津、身体を寄せた。ボールはすぐそこにある。
だが、簡単にとりにはいけない。
守備の基本はリアクション。相手に先に考えさせ、動きを見極めた上で対応しないといけない。
だから、選択肢をいくつか準備する。
守りながら、考える。考えるというよりも、感じる。
次に、相手が何をやってくるのか。
事前に準備していた回答をずっと頭に残しつつ、最後は感じて身体を動かす。
脳の命令を待っていたのでは、間に合わない。感じて、すぐに神経に伝達して、足を、腕を、身体を突き動かす。
ジュニオール・サントス、前に身体を入れてきた。
肉体の強靱さも、チームトップクラス。身体能力だけを取り上げれば、J1でも彼の上をいく選手が何人いるか。
今津、さすがに厳しいか。
ジュニオール・サントス、前をとった。腕を使って追いすがろうとするストッパーを振り切る。
今津、やられてしまったか。いや、まだまだ。
諦めてなるか。
意地が、身体にもうワンランクのエネルギーを与えた。
ジュニオール・サントス、一気のスピードではなく、「緩」を入れた。今津のスピードに手を焼いているのはわかった。
だが、雰囲気は自信満々。次で振り切る。絶対に、振り切る。
さあ、何を仕掛けてくるか。
今津、準備が必要だ。
きたっ。
場所はゴール近く。離されたら得点されてしまう。
だが、この「急」のタイミング、今津は読んでいた。
ここしかない。彼の決意。
ボールをとりにいった。スライディングだ。
確信をもったタイミングだ。
奪った。ジュニオール・サントスも諦めない。
しつこく、ボールをとりにいくが、ここでホイッスル。
ジュニオール・サントスも、今津佑太も素晴らしいバトル。
これほどのバトルがトレーニングで見ることができた。
ああ、もっとたくさんの人に見てほしい。コロナ禍で今は難しいとは理解しているが、それにしても、だ。
かつてのように、もし吉田サッカー公園にファミリーの人々が鈴なりになっていたとしたら、間違いなく拍手をもらえたシーンだ。
森﨑和幸は「練習は常に公開するべきだ」と言い切る。
それは彼自身が、練習の時に感じるファミリーの視線、声、そして拍手に励まされ、時には叱咤激励をうけたことが、選手としての成長に大きな役割を果たしたと考えるからだ。
今、Jリーグのほとんどのチームは、練習を非公開にしている。もちろんコロナ禍が一番の理由。だが一方で、監督によっては情報を隠すことに躍起になり、練習から他者の視線を追いだしたいという意図を持つ人も少なくない。
だが、「情報を隠すことで得られるメリット」と「選手を成長させ、ファミリーにチームのことを理解して応援してもらうことのメリット」を量りにかけた時、どちらのメリットがクラブにとって大きいか。
「練習を公開して負けたらどうする」
そんな質問に対しては、「非公開にすれば勝てるのか」で答えになるはずだ。
筆者は以前、練習を公開しているチームとそうでないチームの勝率を計算してみたことがあるが、答えは「どちらでも変わらない」だった。
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