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偉大なる林卓人、その人間性を尊敬する/広島2-0札幌

札幌の1番・菅野孝憲が、笑顔で林卓人の元に歩み寄り、鎬を削った相手を抱きしめた。試合後恒例の両チームの挨拶での場面だ。

普通、こういうシーンはほとんど、ありえない。まして、菅野は林と同じチームでプレーした経験もない。なのに、まるで旧友と出会ったかのように満面の笑みで、彼は2年先輩のGKに敬意と親しみを表現した。

もしかしたら、林卓人が達成したJリーグ通算500試合出場(史上37人目)という偉大な記録を知っていたのか。あるいは違う理由だったのか、それはわからない。だが、戦った対戦相手から試合後に抱擁を受けるほど、林が尊敬を受けていることは事実である。

試合前、林卓人が相手GKから挨拶を受けるシーンは、SIGMACLUBのカメラマンが何度も撮ってきた。最近では、谷晃生(湘南)が林に敬意を表したこともわかっている。日本代表経験はあるが決して常連ではなく、広島、札幌、仙台と在籍した3チームでJ2でもプレーしてきた(合計183試合出場)。そういう選手が、若手からベテランまで多くのGKから尊敬を受けている。林が持つGKとしての能力だけでなく人間性も含めて、GKの間ではよく知られているということなのだろう。でなければ、敗戦を喫した直後のGKが笑顔で歩み寄ったりはしない。

こういう選手が広島で育ち、紆余曲折を経て広島に戻ってきてくれたことは、本当に誇らしい。

札幌・仙台でレギュラーとしてプレーしていた時も、心の隅にいつも広島があった。2004年オフ、出場機会を求めて札幌移籍を決断した時、彼の将来性を高く評価していた広島は期限付きではなく完全移籍でないと、チームを離れることを認めなかった。その経緯があったからこそ、「もう広島には戻れない」と彼は思っていた。それでも、たとえJ1で1試合、J2で1試合しか出場していなくても、自身が育った広島への郷愁は忘れがたい。

だからこそ、2013年オフに広島から「戻ってこい」とオファーが届いた時、彼は感激した。信じがたい出来事に、心が震えた。

(残り 2414文字/全文: 3251文字)

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