「スタンド・バイ・グリーン」海江田哲朗

【マッチレポート】J2-17[H] FC岐阜戦『突き抜けられない』(2016/06/09)

2016年6月8日(水)
J2第17節 東京ヴェルディ vs FC岐阜
19:03キックオフ 味の素フィールド西が丘
[入場者数]3,120人 [天候]晴のち曇、弱風、気温23.4℃、湿度78%

東京V 1‐1 岐阜
前半:1‐0
後半:0‐1
[得点]
1‐0 中後雅喜(45分)
1‐1 阿部正紀(49分)

●東京Vスターティングメンバー
GK31 鈴木椋大
DF23 田村直也
DF15 ウェズレイ
DF3   井林章
DF6   安在和樹
MF20 井上潮音
MF8   中後雅喜
MF10 高木善朗(72分 中野)
MF7   杉本竜士(80分 永井)(83分 高木大)
FW17 ドウグラス・ヴィエイラ
FW25 平本一樹
(ベンチメンバー:GK26太田岳志。DF30高木純平。MF14澤井直人、16中野雅臣、28楠美圭史、45永井秀樹。FW18高木大輔)

監督 冨樫剛一

■川勝良一さんの言葉

J2第17節、FC岐阜との一戦は、今季初の西が丘開催だった。サッカー専用スタジアムは臨場感が違う。雨さえ降らなければ、みんな大好き西が丘(雨降りだろうが西が丘という人も)。試合前、僕はスカパー!の解説をする川勝良一さん(元東京V監督)と喫煙所で話していた。豊かな経験に基づく監督論、育成論に触れられる貴重な機会だ。きっかけを欲するチームのこと、才能を持ちながら伸び悩む若手のこと、打つ手がなかなかヒットしない監督の苦しさ、ここぞとばかりに質問攻めにしていた。

川勝さんが言う。

「どうなの、調子は。チームに危機感はある?」

僕は答えに詰まった。もちろん、危機感はある。監督、選手、フロント、サポーター、誰ひとりとして現状をよしとしていない。だが、川勝さんの言う危機感はよりシリアスなものだ。

「大丈夫だと言われ続け、最後まで立て直せなかった大分の例もあるでしょ」

これが大勢いるOBの誰かの言葉なら、よくある心配事と聞き流したかもしれない。しかし、相手はほかならぬ川勝さんだ。その言葉は重く響いた。

「あんな思いまでしてチームを残したのに、それが無意味だったことにされるのはかなわんよ」

2009年9月、東京Vは親会社の日本テレビ放送網株式会社が経営から撤退し、存続危機が勃発。同時期、川勝さんは強化アドバイザー(実質的には強化部門のトップ)に就任し、2010シーズンから監督として東京Vを率いた。現在、強化の責任者を務める竹本一彦ゼネラルマネージャーも厳しい予算のやり繰りに苦労しているが、当時の財政難はその比ではない。

強化アドバイザーに就任してから約半年間、新シーズンに向けてチーム編成を行う川勝さんに報酬はなく、交通費さえ出なかった。監督、選手、スタッフを合わせたチーム人件費の予算は1億2000万円弱。たとえば、トレーナーの予算は360万である。ひとり、ではない。ふたり分だ(主導者240万、アシスタント120万の内訳だったとほかから聞く)。この低待遇で誰がほいほい手を挙げるだろう。川勝さんは全国各地に飛び、候補者との面接、もとい、情理を尽くしての説得を試みた。

キャンプではマネージャーの仕事量が多すぎ、選手全員で洗濯物をせっせと畳んだ夜もあった。そうする選手もまた、待遇は格段に下がっていた。年俸は軒並み大幅カット。あるベテラン選手は7分の1となる条件を飲んだ。周囲から信望の厚い土屋征夫(ヴァンフォーレ甲府)がいち早く残留を表明し、その気持ちに従った選手が何人もいた。

勝利給はJ2では最低ラインに近い5万円まで下がった。一方、監督やスタッフの勝利給は費用を捻出できなかった。困難を分かち合おうとする姿勢は、苦しい台所事情を知るがゆえの行動だったに違いない。

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