「エアインタビュー」問題の本質は何か? 佐山一郎(作家・編集者)インタビュー<2/2>
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■「天才的なインタビュアー」猪瀬直樹との出会い
――私にとって佐山さんは、業界の先達であると同時に、非常に大きな影響を受けた書き手のひとりなんですけど、佐山さんご自身はインタビュー取材のお手本になったような人っていらっしゃるんでしょうか?
佐山 37年前にこういう天才肌のインタビュアーと出会っちゃったのは大きかったですね(と言って本を差し出す)。
――『日本凡人伝』。猪瀬直樹さんですね?
佐山 80年代の前半に『STUDIO VOICE』で連載をお願いしていたものの単行本化なんだけど、この本で人生が変わったという人がけっこういるし、いまだに文庫で出ているでしょ。
――この間も書店で見かけましたね。実際、今読んでも面白い作品だと思います。消防庁の職員とか、鉄道のダイヤを作る「スジ屋」とか、そういう無名の人々へのインタビュー集というのは、当時は画期的でしたよね。
佐山 人物コラムの巧いアメリカ人のボブ・グリーンもそうだけど、「話し言葉に光を当てよう」と考えた時代だったんですよ。猪瀬さんは僕より7歳年上ですけど、紙とかネットとか区別せずに今でも積極的にSNSから発信しているのがすごいよね。東京都の副知事時代に、あの東日本大震災があったわけだけど、twitterでのやりとりを『救出:3.11気仙沼公民館に取り残された446人』(河出書房新社)という作品にしているしね。
――猪瀬さんって、確かに都知事時代はいろいろありましたけど(笑)、書き手としての順応性はすごいですよね。それに比べて、雑誌業界そのものは時代に対応しきれず、今も苦しんでいますが。
佐山 これ、知ってます?(と言って今度は雑誌を差し出す)
――『Hail Mary Magazine』ですか。ちょっと見たことないですね。
佐山 今年の春に終刊した『Free&Easy』(イーストライツ)という雑誌のいわば新装開店版なんです。イラストレーターの安西水丸さんの追悼企画で、取材せずに捏造追悼コメントを出して問題になったじゃないですか。でもヘイルメリーカンパニーという会社から新創刊して、この夏、久々に寄稿したときはちょっとだけ嬉しかったけど。
――『Free&Easy』なら覚えています。というか、まさに今回の田崎さんの告発記事でも、そのことが触れられていましたね。
佐山 そうそう。メジャー系の版元ならもう少しうまく回していけるんだろうけど、マイナーでもメジャーでもないあたりの雑誌を続けていくのは労務上の問題もあって本当に大変なことだから。しかし一日は相変わらず24時間のままでしかない。
――そうした「自転車操業状態が、捏造記事の温床になってしまった」なんて理屈を言うつもりはないですけど。でも、少なくとも「話し言葉に光を当てよう」みたいな余裕は、今の雑誌編集の現場では望むべくもないですよね。打ち合わせでよくカンゼンさんのオフィスに伺いますが、本当に皆さん超絶に忙しそうにしていますし。
佐山 だって、エンドレスじゃないですか。紙の『フットボール批評』と同じように『フットボールチャンネル』も回していかないといけないし、ジュニア向けサッカー誌も野球もラグビーも単行本も、というふうにやっているわけでしょ。今ではどこも紙とネットをセットで編集しているから、ずうっとエンドレスのまんま。自分自身が雑誌の編集長をやっていた時代も死ぬほど忙しかったけど、それでも校了したら4~5日はぼんやりと次の企画を考える時間がありましたよ。そんな余裕、もう今はないでしょ?
――おっしゃるとおりです。でもって、そのしわ寄せが紙媒体のブランドを毀損しかねない状況を生み出しているから、いつも陰ながら心配しています。『フットボール批評』で「エアインタビュー許すまじ!」ってやっている一方で、『フットボールチャンネル』で裏を取らないような記事を出してしまって、突っ込まれてしまっていますし。ただしカンゼンに限らず、最近の編集者は取材者としての教育をきちんと受けていないように感じられますよね。それもまた、日常業務の余裕の無さが背景にあると思うのですが。
佐山 OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)ということでは、自分もそうだったけど、雑誌には編集長の作品みたいなところもあってね。自分が盛んにやっていた頃は、編集権と営業権を二項対置的に分けて考えていたんです。それでも「広告タイアップ頁を即作って」みたいな営業からの無理難題が上がってくるわけですよ。編集権を守るために、上層部や営業の人たちと口論になったことが何度かあります。徹夜は厳禁。日が暮れたら早く出て青山のカフェバーで業界の編集者仲間と飲め、なんて路線を敷いていたからフリーになっても妙に順調ではありました。年齢は私より15歳下でも(田崎)健太にはそういう熱い時代の雰囲気がある。だから余計に頭に来てしまうんじゃないですかね。
――広告タイアップを巡って上層部と口論というのは、「ステマ(Stealth Marketing)記事」が横行している今ではちょっと想像できない話ですね(苦笑)。
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