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宇都宮徹壱ウェブマガジン

盆踊りと祭りから見える「日本」の風景 『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』著者 大石始インタビュー<1/2>

 3年ぶりとなる私の新著『サッカーおくのほそ道』の発売を記念して、先週から2週にわたり日本の「地域性」や「ご当地感」への考察を深めるためのインタビュー記事をお届けしている。今週、ご登場いただくゲストは、旅と祭りの編集プロダクション『B.O.N』のライター/編集であり、今年6月に『ニッポンのマツリズム 盆踊り・祭りと出会う旅』(以下、『ニッポンのマツリズム』)を上梓された、大石始さん。当WMでは初めての、サッカー業界以外からのゲストである。

 大石さんを紹介していただいたのは、スポーツから音楽から芸能に至るまで幅広く取材活動を続けているカルロス矢吹さん。ある時、カルロスさんから「盆踊りや祭りのジャンルで、宇都宮さんのような取材活動をしている面白い音楽ライターがいるんですよ」という情報をいただいた。すぐにご本人とコンタクトが取れ、贈っていただいた『ニッポンのマツリズム』を読ませていただいたところ、これが『サッカーおくのほそ道』の祭りバージョンといった感じで、とにかく面白い! というわけで、今回のインタビューが実現した。

 実のところ、祭りとサッカーの応援は親和性が高い。たとえばラインメール青森のチャントには「ラセラーラセラー」というねぶたのフレーズを取り入れているし、徳島ヴォルティスのゴール裏では阿波踊りで使う鉦(かね)が使われることがある(他にもそうした事例はいくらでもあるだろう)。ただ、大石さんのフィールドワークはかなりディープであり、「日本にはこんな祭りがあるのか!」という、実に摩訶不思議な世界観が広がっている。今回のインタビューはサッカーファンのみならず、音楽ファン、そして旅行好きな方にも、きっと喜んでいただける内容と自負する。最後までお読みいただければ幸いである。(取材:2016年9月16日@東京)

■日本人特有のリズム感覚とか身体性

――大石さんの近著『ニッポンのマツリズム』を読ませていただきました。私は祭りではなく、全国津々浦々のサッカークラブを取材しているんですが、大石さんがこれまで続けてこられたフィールドワークに強いシンパシーを感じて、このたびの取材となりました。さっそくですが、この本によると高円寺阿波踊り錦糸町河内音頭大盆踊りが、祭りを追いかけるきっかけだったそうですね。スタートは2010年だったとか。

大石 そうですね。ただ、この本には書かなかったんですけど、10代の時から中上健次が好きで、彼がたびたび言及してきた熊野の御燈祭に行ったこともありました。それが09年のことだったんですけど、自分のテーマとしてがちっと明確になったのが、高円寺の阿波踊りと錦糸町の河内音頭でした。

――高円寺の阿波踊りといえば、私も杉並区に住んでいたことがあるので、もちろん存在自体は知っていたんですけど、この年齢になるまで一度も見ていないんですよね。

大石 わかります、わかります。僕も学生時代から中央線沿線は馴染みがあって、存在も知っていましたけれど、なかなか接する機会がありませんでした。「わざわざ見に行く必要もないだろう」と。そしたら久保田麻琴さんという音楽プロデューサーの方から「実は大石くん、高円寺の阿波踊りってすごいんだよ。ぜひ、行ったほうがいい」と言われて、軽い気持ちで行ってみたら、思いっきりノックアウトされてしまったということですね。

――高円寺の阿波踊りがいかにして始まったのか、なぜ徳島県の阿波踊りが遠く離れた土地に移植されたのか、最初は顔を白塗りにして踊っていたことも含めて、知らない話ばかりでした。ただ、そうした身近なお祭りを取材する以前は、大石さんは海外の音楽のほうに関心があったそうですが。

大石 そうですね。ブラジルとか、モロッコとか、スペインのバルセロナとか。それぞれの土地に行って、それまで聴いたことのないような地元の音楽に触れるじゃないですか。すると、子供からおじいちゃんやおばあちゃんまで、普通にそのリズムで歌ったり踊ったりするわけですよ。たとえばルンバ・カタラーナ(参照)っていう、フラメンコのバルセロナ版みたいな音楽のライブを現地で見たことがあるんですけど、自分と同世代くらいの女の子が、音楽が始まった瞬間に「パルマ」っていう手拍子をパパパってビートで刻むんです。それがすごく格好いいんですが、僕が真似してやろうとしても、これができない(笑)。

――それってテクニックの問題以前に、持って生まれたリズム感であったり、その土地の日常生活の中で培われたりするものじゃないですかね。

大石 そうです。それで羨ましく思った一方、「じゃあ、僕らの住む日本列島には、どういうリズムがあるんだろう」ってことを、旅の途中でぼんやりと意識として浮かんできたというのがありました。

――それって、サッカーの話にものすごく通じるところがありますね。日本はドイツにもスペインにも、さらに言えばブラジルにもなれない。いくら戦術やトレーニングを模倣したところで、やっぱり本物には敵うはずがない。じゃあ、「日本のスタイルって何だろう」というのは、たびたび論じられてきたことです。それからサッカーファンに関しても、最初は海外サッカーから入って、やがて自分の国のサッカーに回帰していくというのは、わりとよくある話なんですよね。

大石 自分も子供の頃からロックを聴いていて、アメリカン・ロックやヒップホップで育ってきたんです。でも一枚皮をひっぺがすと、先祖から受け継いできた、日本人特有のリズム感覚とか身体性といったものって、きっとあるんじゃないかと。そういうことは自分の中のテーマとして、ずっとあったように思います。

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