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「3.11」に全国リーグの舞台に立つことの意味 近江弘一(コバルトーレ女川代表)インタビュー<1/2>

 今年も鎮魂の日が近づいてきた。2011年3月11日に列島を揺るがせた東日本大震災。当WMは前身のメルマガ時代から、毎年この時期は震災関連のコンテンツを発信している。あれから7年となる今年は「被災地のクラブ」であり、今季から戦いの舞台をJFLに移すこととなったコバルトーレ女川の代表、近江弘一さんのインタビューをお届けすることにしたい。このインタビューは、現在発売中のフットボール批評のためにセッティングされたものだが、今回は独立したコンテンツとして掲載する。

 実は近江さんは、単なるクラブの代表ではなく、いくつかの肩書を持っている。そのうち、最も有名なのが「株式会社石巻日日新聞社代表取締役社長」。石巻日日新聞といえば、震災直後、避難所で不安に震える被災者に希望を与えた「壁新聞」を発行し続けたことで知られる(参照)。この「壁新聞」の存在は国内のみならず海外でも報道され、TVドラマにもなった(近江さんの役は、女川町出身の中村雅俊が演じている)。

 06年に設立され、同年に石巻市リーグから12年でJFLに到達したコバルトーレの物語は、それこそ一冊の本が書けるくらいドラマティックである。そして、クラブを立ち上げた近江さんの半生もまた、実に波乱万丈だ。それまで、ワールドワイドなビジネスを展開していた近江さん。それがなぜ、「社会性の強い仕事をして地元に貢献する」ことを決断し、どういった経緯でサッカーと結び付いたのか。そして未曾有の震災をどう乗り切り、力に変えていったのか。

 奇しくも「3.11」がJFL開幕日となった今年、あらためて当時に思いを馳せながら「スポーツが持つチカラ」を考える契機となれば幸いである。(取材日:2018年1月6日@女川町)

<目次>

JFL昇格は「そんなに期待していなかった」

*06年にコバルトーレ女川を立ち上げた理由

*コバルトーレ最初のスポンサー「高政」とは?

*震災直後の壁新聞とコバルトーレの活動停止

*なぜ選手たちは女川を離れなかったのか?

*3月11日にJFL王者と対戦できるということ

JFL昇格は「そんなに期待していなかった」

──本題に入る前に、去年の地域CLのお話から伺いたいと思います。11月26日の決勝ラウンド第3戦、アミティエ京都SC戦はずっとベンチにいらしていたそうですね。JFL昇格はほぼ間違いない状態でしたが、どんな心境で試合をご覧になっていたんでしょうか?

近江 内心、ヒヤヒヤして見ていましたね。3試合目に90分でやられたら、昇格の目がなくなってしまう可能性もあったし、アミティエは強かったじゃないですか。しかもあの日は、強い風が吹いていて前半は風下だったし。

──さらに後半開始早々、ひとり退場になりましたしね(苦笑)。

近江 そうですよ! でも、ひとり少なくなったことで「これで戦い方に迷いはなくなったな」とも思いましたね。まずはしっかり守って、少ないチャンスをモノにするということで、チームに意思統一が生まれたと思います。

──実際そのとおりの展開となって、セットプレーからの1点を守りきってJFL昇格のみならず、地域CL優勝も決めました。それにしても前回大会は1次ラウンド敗退で、東北と全国の差というものを痛感したと思うんですが、二度目のチャレンジでここまでの結果を出せると予想していましたか?

近江 正直、最初はそんなに期待していなかったです(苦笑)。ただし今回は、1次ラウンドをワイルドカードで突破して、それまで勝負弱かったのが「これをきっかけに変われるんじゃないか?」という予感みたいなものはありましたね。そんなに選手の入れ替えはなかったんだけど、その分チームのバランスはすごく良くて、要所要所できっちりと役割を果たせていました。

 それと今回はチーム内の雰囲気も良かった。昨シーズンはずっと、選手たちに帯同して試合は見ていたんですよ。地域CLだけでなく東北リーグも。だからチーム内の雰囲気の良さはわかっていたけれど、選手の気持ちとしては前回大会の悔しさみたいなものもあったかもしれない。だから、最後には本当の底力を見せてくれましたよね。

──去年はリーグ戦もずっとご覧になっていたんですか?

近江 見ていました。と言うか、僕が運転手でしたよ。バスじゃないけど、ハイエースのでっかいやつを運転して用具を運んでいましたから。

──石巻日日新聞の社長が、地域リーグのクラブの運転手ってすごくないですか(笑)?

近江 いやいや「運転手が新聞社の社長やっている」と思えばいいだけで(笑)。

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