宇都宮徹壱ウェブマガジン

テロの脅威は? フーリガン対策は? ワールドカップを楽しむための安全管理<1/2>

 5月になった。先月は日本代表関連でさまざまな事件が起こったが、気がつけばワールドカップ開催まで、あと1カ月ちょっと。来月の今ごろには、私も日本代表の欧州合宿を取材しているはずだ。一方、現地観戦を計画されている方々も、無事に手元に届いたFAN ID(応援者のパスポートとなる観客カード)やチケットを眺めながら、期待に胸を膨らませていることだろう。そんな中、忘れてならないのが現地での安全管理である。

 今回の開催国であるロシアは、前回大会のブラジル、さらに前々回大会の南アフリカに比べれば、治安面での懸念材料はほとんどない。とはいえ、日本とまったく同じ感覚で現地入りすると、痛い目に遭う危険性は十分にある。一般犯罪も気をつけたいが、テロの脅威はゼロではないし、ロシアのフーリガン事情も西側諸国と比べるとかなり先鋭化しているようだ。

 そこで今回は、ふたりのゲストをお招きすることにした。ロシアおよび旧ソ連諸国の専門家である服部倫卓さん(一般社団法人ロシアNIS貿易会。写真左)、そして海外での安全管理のエキスパートである尾崎由博さん(海外安全.jp代表。同右)。ロシアという国に安全管理という観点を掛け合わせることで、現地観戦を予定されている方々に、より有益で実用的な情報を提供しようというのが、今回の主旨である。

 私自身、これまでロシアには4回渡航しているが、近年これほど目まぐるしく変化している国は珍しい。現地の情報は常にアップデートする必要があり、それは安全管理についても同様である。むしろ旅慣れている人ほど、今回の対談で語られていることを参考にしていただければ幸いである。なお、今回の対談のセッティングにご協力いただいた、元徹マガ編集部の金子雄太郎さんには、この場を借りて御礼申し上げたい。(2018年3月19日@東京)

<目次>

*決して「盤石」とは言えないプーチン政権

*ロシアに出稼ぎに来る中央アジアの人々

*「警察国家」ゆえにテロ対策は万全?

*ロシアのフーリガンが目の敵にする国とは?

*ストイックすぎる(?)ロシアのフーリガン

*「RUN」「HIDE」「FIGHT」という三原則

■決して「盤石」とは言えないプーチン政権

──今日はよろしくお願いします。まずはそれぞれの立ち位置を明確にするべく、自己紹介からお願いできますでしょうか。服部さんからお願いします。

服部 服部です。私は一般社団法人ロシアNIS貿易会という団体で、ロシア及びその他の旧ソ連諸国と日本との経済関係を促進するためのイベント開催や情報発信をする仕事をしております。主な仕事は、ロシアやウクライナの現地調査、会員向けの雑誌の編集、そして個人的には現地のサッカー情報などを発信しております。ちなみに出身は静岡でして、清水エスパルスのサポーターでもあります。

尾崎 尾崎です。私は2006年から12年間、JICA(国際協力機構)に勤務していました。そのうち7年にわたって、インド、パキスタンに駐在したほか、アフガニスタンを含む国を担当して、主に安全管理の仕事をしてきました。そこでかなり実践的に鍛えられて、このたび独立して『海外安全.jp』という安全対策のコンサルティングの仕事を始めることになりました。今回はワールドカップのような国際的なイベントで、現地で安全に楽しむための危機管理の知見をご提供できればと思います。出身は関西なのですが、大学は北海道大学でしたので、今でも北海道コンサドーレ札幌を応援しています。

服部 実は私も北大の大学院に通っていまして、つい最近修了したところです。とはいえ、コンサドーレは「敵」ですけどね(笑)。

──ということで、清水サポと札幌サポによるワールドカップ・ロシア大会の安全管理というテーマで、今回は語り合っていただきたいと思います。さてロシアといえば、ちょうど昨日(3月18日)、プーチン大統領の再選が決まりました。まあ、順当この上ない結果でしたけれど、服部さん、これでロシアは今後も安定した政権運営が続いていくということでしょうか?

(残り 4504文字/全文: 6161文字)

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