宇都宮徹壱ウェブマガジン

結果オーライで蝕まれる「青い巨塔」のガバナンス 岡島正明(前JFA専務理事)インタビュー<1/2>

 まずは一冊の書籍を紹介したい。『サッカーファミリーへの中間報告 サッカー歴ゼロ専務理事の独白』。著者は2016年から18年までJFAの専務理事を務めた岡島正明さんである。ネットで検索すると、田嶋幸三JFA会長が最初の会長選挙に勝利して組閣したメンバーの中に、岡島さんの姿を見つけることができる(参照)

 もともとサッカーとはほとんど接点のなかった岡島さん。それでも非常勤ながら専務理事となったのは、農水官僚としての職務経験を見込まれ、JFAの「ガバナンスとコンプライアンスを見てほしい」という田嶋会長からのオファーを受けたからだ。そして着任早々に取り掛かったのが「JFAリフォーム」の検証である。

「JFAリフォーム」とは、13年のFIFA総会にてFIFAの規約が修正され、「加盟協会はFIFA標準規約に準拠した規約を承認すること」が義務付けられることとなった。これを受けて、JFAでも規約が改定されることとなり、いくつかの項目の中に「会長予定者の選出に関する事項(=会長選挙)」が含まれていた(参照)。16年1月の田嶋氏と原博実氏による会長選挙は、FIFAの要請によって改定されたJFAリフォームに則って行われたものである。

 ところが、このJFAリフォームを検証したところ「一読して『これはおかしい』と思えるところがいくつも出てきた」(岡島さん)。つまり「ルールを守る(=コンプライアンス)」以前に「守るべきルール」がガタガタ、という状況だったのである。では、その岡島さんの問題提起に対して、田嶋会長をはじめとするJFAのボーディングメンバーは、どのような対応をとったのか──というのが、『サッカーファミリーへの中間報告』の主な内容である。

 本書は昨年2月に自費出版で上梓されているが、今年4月のヴァイッド・ハリルホジッチ監督(当時)の解任が「会長の専権事項」で行われたことについても、岡島さんは「手続き的におかしいし、説明責任を果たしていない」としている。その根拠は何か。岡島さんには、私のような法律の世界に縁のない人間にも理解できるよう、丁寧かつわかりやすく解説していただいた。

 ワールドカップでのベスト16進出、U-20女子ワールドカップでの優勝、アジア大会での優勝(女子)と準優勝(男子)、そして森保一新監督率いる新生日本代表の初陣での快勝。二期目となる田嶋JFAは、順風満帆のようにも見える。しかし、すべてが結果オーライという現状には、何とも言えぬ不安を禁じ得ないのも事実。岡島さんの貴重な証言から、なかなか窺い知ることができない「青い巨塔」の内側に歩みを進めることにしたい。(取材日:2018年8月29日@東京)

<目次>

*「誰ひとりとして自らの間違いを認めようとしない」

*「俺はワールドカップ予選のほうが大事なんだ!」

*「ワールドカップの前に騒ぎを起こしたくない」

*代表監督の解任は「会長の専権事項」なのか?

*「選挙のほうが民主的でいいよね」というムード

*「田嶋批判をすればするほど反田嶋派が喜ぶ」

■「誰ひとりとして自らの間違いを認めようとしない」

──今日はよろしくお願いします。岡島さんはもともと農水省のご出身で、80年代にはお仕事で滞在したフランスで、ラグビーとサッカーをよくご覧になっていたと。そして09年に退職後、大学院で教鞭をとりながら、JFAアカデミー福島でも講義を持っていたそうですね。まずはそのあたりのお話からお願いします。

岡島 2010年から11年のあの日(東日本大震災)の1週間前まで、JFAアカデミー福島で2週間に一回教えていました。10年からは青山学院大学大学院の総合文化政策学部というところで政策マネジメントを、それから14年からは政策研究大学院大学で農業政策を教えています。

──なるほど。では、JFAアカデミーとの接点はどのようなものだったんでしょうか。

岡島 私は田嶋さんのお兄さん、82年から今に至るまでずっとお世話になっているんですよ。お兄さんは熊本県の苓北町というところの町長を8期くらいやられているのかな。そのお兄さんから紹介されたのが最初のきっかけですね。その後、成田空港で田嶋さんにばったりお会いしたのが09年。アカデミーを立ち上げて3年くらいだったので、「じゃあ何か手伝わせてください」と言ったんです。それで1週間くらいJヴィレッジに滞在しながら、アカデミーの様子を観察したんです。

──09年といえば、田嶋さんが「エリート教育」の重要性を盛んに説いていた頃だと思いますが、実際にご覧になってみていかがでしたでしょうか。

岡島 見ていて「これがエリート教育だろうか?」と思ったんですよ。確かにサッカーに関することや、英語をはじめとするカリキュラムは充実している。1期生もみんな真面目でいい子なんです。でも、たとえば寄宿舎のロビーに置いてあるTVでサッカーは一生懸命見ているんだけど、その傍らに置いてある新聞にはまったく見向きもしない。たぶん関心がないんでしょうね。だったら1週間に1コマいただいて、まずは新聞の読み方から始めようかって。そこからでしたね。

──それが震災の影響で、いったんJFAとの関係が途切れるんですけど、5年後の16年3月から専務理事に就任することになります。今度は田嶋さんからのオファーで、ガバナンスやコンプライアンスを中心に非常勤でいいから見てほしいと。そこでJFAリフォームについて調べているうちに、岡島さんは違和感を抱くようになったわけですが、具体的にどのあたりだったんでしょうか。

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