「栃木フットボールマガジン」鈴木康浩

ユース時代の山本廉、小堀空らに掛け続けた言葉。プロで生き抜く覚悟を持たせる指導とは何か?/栃木SC 浜嶋淳郎U-18監督【インタビュー連載③/全3回】(21.2.22)

大変長らくお待たせしてしまい申し訳ありません! 昨季中に実施させてもらっていた栃木SC 浜嶋淳郎U-18監督のインタビュー。U-18からトップチームへと育った山本廉、小堀空らへの指導、U-18での”プロになるための指導”などについて語ってもらっています。

 

浜嶋淳郎(はまじま・じゅんろう)。1989年、千葉県出身。柏レイソルU-12からU-18まで柏一筋で過ごす。静岡産業大学を卒業した後は藤枝MYFCなどでプレー。指導者への転身は、栃木SCレディースのコーチ就任から。15年から栃木SC U-18コーチ、17年から同U-18監督に就任した。昨年のクラブユース選手権では湘南、大宮、仙台らを撃破。その手腕はユース年代で高く評価される。写真提供:栃木サッカークラブ

 

「今後、明本たちに続く選手を毎年輩出します」栃木SCアカデミーのDNAとは何か?/栃木SC只木章広育成部長【インタビュー連載①】

 

明本考浩、森俊貴らのベースを作った熱血指導、そしてこれからの青写真。「攻撃は佐藤悠介、守備は佐藤祥。2人を融合させたボランチを作り上げたいと思っています」/栃木SC 花輪浩之アカデミーダイレクター【インタビュー連載②】

 

▼ユース時代の山本廉への言葉

 

――今季は山本廉選手がビッグゴールを決めました。

 

浜嶋淳郎監督(以下、浜嶋) 自分が関わってきた選手がピッチに立って活躍しているのは本当に嬉しいです。廉は華やかな選手に見られることも多いのですが、高校時代は泥臭くボールを奪って、相手をなぎ倒して進むような泥臭さのある選手でした。J2でプレーを続けるなかで、ようやくそういう部分がピッチで見えてきて廉らしくなってきたと感じます。

 

――プロのピッチで最初は遠慮していたのかもしれませんが、いまはバチバチやっていますね。

 

浜嶋 そうですね。「廉が将来生きていく武器はそれだぞ」というのは3年間ずっと伝え続けてきた部分です。高校時代にアルトゥーロ・ビダル(インテル・ミラノ)の映像を廉に何回も見せながら「お前はビダルとかそういう選手になりたいんじゃないの? そうでなければプロで生きていけないだろ?」といった話をしたのはよく覚えています。

 

――ビダルですか。彼には縦パスを入れるときの華麗さがありますが、ユース時代からビダルを意識させていたんですね。

 

浜嶋 もともとテクニックに長けた選手でした。廉が秋田から栃木に来た高1のときは、“ただうまい選手”という印象でした。得点を奪うことよりもアシストを好むような選手で、キレイにサッカーをする選手でした。縦パスを入れることに関しても、身体を開きながら相手の矢印を利用して縦に通すのがうまかった。でも、栃木に来てからは、当時ユースでともに指導していた町田監督(秀三、現栃木SC U-15監督)と話をしながら、廉に勝負の厳しさを伝えて、廉に足りない部分にも少しずつ目を向けさせながらやっていきました。

 

――「ビダルになれ」と強調した理由は?

 

浜嶋 廉を見たときに誰よりもボールを奪う能力に長けていると感じたからです。自分の間合いに関してはとても速く強い子でした。簡単にボールを奪い切ることのできる選手はなかなかいないのですが、廉は1対1でボールを奪い切れる選手でした。そこを強みにした選手になって欲しかったですし、だからビダルだったんです。

 

――ビダルという話をしたとき、本人は納得していたのですか?

 

浜嶋 本人も納得していました。彼の活躍している試合はたいていそういうプレーで目立っていることが多くて、高校3年生の夏のクラブユース選手権の全国大会で、本庄(竜大、山本廉とともにトップチームに昇格後に昨年引退)が2点を決めて追いついた大分トリニータとのゲームなんかも、まさに廉のストロングが出た試合でした。雨でピッチ状態が悪い中、ハードな試合でしたが、後半のラスト15分も彼は際立っていました。ピッチ上の22人の中で間違いなく一番光っていました。

 

――ミドルレンジからのゴールもユース時代に決めていたのですか?

 

浜嶋 そうですね。ミドルシュートも得意な選手でした。しかも、両足で蹴れます。実際に彼の利き足はどっちかよくわかっていなくて(笑)。本人も最初に練習参加したときは右利きだと言っていたのですが、いまは左利きと言っています(笑)。当時から左足でボールを持てるし、遜色なく両足使える選手でした。当時はプレースキックも両足で蹴っていましたね。

 

 

▼明本考浩が体現した栃木SCアカデミーに流れるDNA

 

――今後、山本廉選手のような選手を輩出し続けたいのだと思いますが、高校3年間のうちに身につけてもらう最低ライン、ここだけは外せない、というものはどういうものですか?

 

浜嶋 まさに明本考浩(今季から浦和)が栃木SCのアカデミーのDNA、アカデミー出身の選手が必ず持っていてほしいものを最大限に表現してくれています。彼の映像は編集してユースの選手たちに送っているのですが、同時に「これが栃木SCアカデミーのDNAだぞ」と口酸っぱく繰り返しています。うまい・へたは関係なく、チームを勝たせるためにハードワークする。それが見ている人たちをワクワクさせるし、それがサポーターが背中を押したくなるチームだし選手なんだぞ、と。徳島ヴォルティス戦で明本が5度追いしたシーンとか、50メートルくらいプレスバックしたシーンとか、最後はスライディングで身体を投げ出して当ててスローインにしたシーンとか、そういう泥臭いシーンですが、「これをみんながやることができたら本当に強いチームになるぞ」「やっぱりハードワークは唯一対策できないものだ」ということは常に伝えていますね。

 

――ハードワークに好不調はない。

 

浜嶋 そうです。それは今年、改めて僕も勉強させてもらいました。もちろん、ただ走ってもダメなので、常に状況判断しながら走ることや、常にインテンシティの高いトレーニングを我々が提供し続けなければいけないと思っています。

 

――モデルとする明本選手のプレーについて、ユースの選手たちはどういう反応をしますか?

 

浜嶋 もともとユースでも強く求めてきた部分だったので、一からやるという感覚ではありませんが、自分たちをはるかに上回るハードワークを見せてくれる先輩に対して「すっげえーな……」となっていますね(笑)。だから自分たちが伝えるよりも早いというか、それを見て勝手に選手たちがやるんです。そういう先輩がいるのは我々としては大きいです。

 

――あの2度追い、3度追い、4度追いといったプレスはJ2でもトップクラスですよね。

 

浜嶋 クラブ愛というか、このチームを勝たせないといけない、という彼の責任から来ているものもあると思います。それこそが育成から上がっていくメリットだと思いますね。

 

――ジュニアユースからユースに昇格してくる選手たちは、栃木SCが脈々と大事にしているハードワークを積み上げてきていると感じますか?

 

浜嶋 そうですね。全学年、全カテゴリーでそれを求めています。それが薄くなっていると感じたときには、スタッフから「ここのカテゴリーで強めていかないといけないよ」といった声も挙がります。今後はハードワークの部分をしっかりと言語化して、我々のDNAはこういうものだ、と打ち出していかないといけないし、その作業がより重要になってくると思っています。

 

――明本選手の映像以外にも、ヨーロッパの最前線の映像を見せることもあるそうですね。

 

浜嶋 僕自身、去年ドイツで勉強してきましたが、トップチームも参考にしているドイツのライプツィヒの映像はユースの選手たちによく見せています。前に前に出ていく守備、ブロックを敷いているところからアタックしていく守備の仕方、あるいはボールを奪った瞬間にチーム全体が前に出ていく爆発力など、すごく参考になるし、我々が目指すところに非常に近いと思います。

 

――そういう意味では、2020年シーズンはトップチームとアカデミーの目指すものがピタリと一致したシーズンだったと。

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