病院リストの作成へ-性病座談会その後-[ビバノン循環湯 49](松沢呉一)-8,368文字-
「皆で性病になろう」という趣旨ではなくて、あくまで「セックスのこと、病気のことを語れるようにしよう」「知識を得て、対策をとるべし」という趣旨だったのですが、あの座談会が契機になったかのように、以降、私は各種性感染症に罹患します。それまで感染していなかったことの方が不思議かもしれない。
そこから、「感染する時はする。であるなら、検査をマメにし、即治療できるようにした方がよく、これを広く性風俗業界で徹底すべきではないか」ということになり、安心していける病院リストの作成にとりかかります。その顛末を書いたものです。すでに消えてますが、ネットに書いたものです。
長いですけど、1度に出します。
性病座談会に至るまで
性病座談会は梅毒さんの存在を編集部から聞き、「だったら」ということで企画したものだ。
エロさんは拙著『ぐろぐろ』にも登場してもらっているように、前からの知り合いで、すぐに出席OKをもらえたが、それ以外がなかなか決まらない。
やはりエロ業界の人間で、いろんな病気をやっている人がいたのだが、スケジュールが合わず、参加できなかった。ゲイ関係も一人欲しく、こちらも強烈な人がいたのだが、やはりスケジュールが合わない。結局、毛ジラミに。性感染症とはちょっと違うが、毛色が違うので、これはこれで落ち着きがいい。
しかし、女性がいない。座談会内に出てきたコンジロームを彼氏に感染させた女性には「座談会は無理」と言われて、知り合いの風俗嬢に聞いても、「罹ったことがない」と言う。病歴があったとしても、やっぱり言いたがらないのかもしれない。
座談会の会場となったノーパン喫茶「ヴーケ」に、高校時代、トリコモナスになったのがいるのだが、彼女も座談会はイヤだと言う(出勤していたら、無理やり出てもらおうと思っていたが、この日は休みだった)。
「難しそうなので、女子はいなくていいか」ということになったのだが、たまたま、この数日前に会ったエルメス女王に聞いたら、「ヘルペスになったことがあるよ」と言うので、「写真を出さない」「絶対にどこの誰かわからないようにする」という条件で出てもらうことになった。写真を是非見せたい美形なんだが、話すことは大変お下品で好ましい(右の写真は彼女ではありません)。
座談会の数日後、某誌の女性編集者が淋病経験者であることが発覚。淋病だけならたいしたことがないが、それが原因で子宮が腫れて、救急車で運ばれたそうだ。さっそく彼氏も病院に行かせたところ、彼氏はセーフ。彼女は浮気をしておらず、ずっと前に付き合っていた男にもらった淋菌を膣内で大事に育てていて、子宮内にまで達したらしい。
たかが淋菌もバカにできない。もうちょっと早くわかっていれば、彼女にも参加してもらえたのに惜しいことをした。
座談会その後
座談会の段階では、性病になったことがない私は肩身の狭い思いをしたが、あれからしばらくして、朝、小便をしたら尿道が熱い。またしても持病の尿道炎か。たかが尿道炎だが、厄介な病気ではある。完全に癖になっており、徹夜が続いたりすると発症する。医者によると、体力が落ちないようにする以外に対策はないのこと。
しかし、今回は尿道炎よりもうちょっと痛い。尿道口を見ても膿は出てないが、「もしかすると、遂にオレも仲間入りか」と、その日の夕方、性病検査で馴染みの病院に行った(そんなもんで馴染みになるなってか)。
医者に「たぶん尿道炎じゃないと思います」と、期待を込めて私は言った。さして根拠はない。
問診のみで医者は「クラミジアだろう」と判断。クラミジアは男でも症状が出ないことが珍しくないのだが、出るとすれば、痛み、むず痒さ、膿などの症状がある。この直前に旅行に行っていたので、体力が落ちていたのだろう。
クラミジアでも雑菌性の尿道炎でも、どっちにも効く抗生物質をもらい、半年ほど検査をしていないことでもあるので、HIVや梅毒も調べようと血液検査を依頼した。
先日、人に初めて聞いたのだが、B型肝炎のワクチンがあるらしい。
「ありますよ。医療関係者はだいたい打ってます」
院内感染することがあるためだ。そこで、私も打ってもらうことにした。
「ただし、肝炎も種類がいろいろあって、肝炎のすべてを予防できるわけじゃありません。でも、性行為で感染するのはだいたいB型ですから、ワクチンで防げます。六千円以上しますが、いいですか」
六千円でB型肝炎が防げるなら安いもの、なにしろ肝臓は一度ヤラれると、治療に時間がかかり、下手すると死ぬ。
「私自身がそうなんですが、ワクチンを打っても抗体ができない体質の人がいます。無駄になってしまいますけど、いいですか」
しょうがないわな。
「自分では気づかないうちにB型肝炎に感染し、体が治して抗体ができていることがあります。その場合はワクチンが必要ないので、B型肝炎の抗体検査もしましょう」
世の中には、感染しても、勝手に体が治してしまっている頑丈者がいるそうなのだ。
その晩、うちに帰ってよく見たら、しっかりチンコの穴から膿が出て、パンツが汚れているではないか。
抗生物質を飲んだら、早くも翌日には膿が消えた。医者の話でも、二日で菌は消えるとのことだった。これで完治。あっけない。
いったんはクラミジアかと思っただけに、なんとしてもクラミジアであって欲しいと私は祈るような気持ちで検査結果を待った。もしクラミジアじゃなかったら、誰かに何か病気をもらわないでは気が済まない。
(残り 6206文字/全文: 8470文字)
この記事の続きは会員限定です。入会をご検討の方は「ウェブマガジンのご案内」をクリックして内容をご確認ください。
ユーザー登録と購読手続が完了するとお読みいただけます。
会員の方は、ログインしてください。
外部サービスアカウントでログイン
Twitterログイン機能終了のお知らせ
Facebookログイン機能終了のお知らせ