松沢呉一のビバノン・ライフ

都会だけが日本じゃない—今もある夜這い-[ビバノン循環湯 189] (松沢呉一) -3,666文字-

今も祭りの時の無礼講が残っていて、独身者たちはやりまくりになる地域があると聞きます。知人の知人の話で、どこまで本当かわからないのですが、東北のある町の大きな祭りの際に、女子高生二名から誘われたのがいます。どういう誘いの言葉だったか忘れましたが、露骨にセックスを匂わす言葉だったため、彼は何かあるんじゃないかと疑って、お断りしたそうです。高校生が3Pはないだろうと。ひとつ間違えたら捕まりますしね。

実は夜這いもまだ残っている地域があるのです。ただし、昔のままではありません。また、この町では、不倫もさして問題にならないらしい。男だけじゃなく、女の方も同じ。これは昔のままかもしれない。

五年ほど前にメルマガに書いたものです。

 

 

 

日本のある田舎町のお話

 

vivanon_sentence古い雑誌を読んでいると()、「昔は夜這いがあっていいなあ」「おおらかな性行動はいいなあ」と思うわけだが、だったら、今からでも田舎暮らしをすればいい。

驚くべき話を聞いた。東京生まれの東京育ちなのだが、今は「ど」のつく田舎に住んでいる人物がいる。具体的な地名を書いた方がイメージしやすいと思うが、小さい町なので、個人が特定されてしまいかねまい。田舎ではなお村八分も残っていて、彼はそもそもよそ者だから、彼や登場人物のためにすべてあやふやにしておく。

彼が住んでいる町には、駐在さんがいる。今も駐在さんがいるところにはいるのだ。

「その駐在さんも、その奥さんも不倫をしている。狭い町だから、相手も全部わかっている」

あとで検索してみたら、たしかに駐在所がその地にはあった。電話番号が出ている。駐在所は家と一緒になっているのだから、この番号に電話すると、不倫妻が出るのかも。ドキドキしてきた。

さらに検索したら、うわー、インターネット、怖いわ。どこが怖いかを言うことで、場所を特定できる可能性があるので、やめておく。

下手すると、駐在所があるというだけで場所が特定できるのではないかと思ったのだが、それはなさそう。東京にもまだ五十九カ所に駐在所があるのか(追記)。全国だと千くらいあるのかもしれない。

駐在さん夫婦に限らず、この町では、不倫話がゴロゴロある。それで離婚ということもあるにはあるが、浮気即離婚ということにはならず、皆さん、「よくあること」として容認。どうせ自分も不倫を楽しんだことがあるか、今も楽しんでいる。それを知っている周りの人たちも楽しんでいる。娯楽が少ないため、不倫をするのは自分の楽しみであるのと同時に、他の人たちの楽しみでもある。

「不倫くらいで離婚していたら、ほとんどの夫婦が離婚ですよ。そのくらい多い。どこだって不倫している人はいるだろうけど、あの町で暮らしていると、不倫している方が当たり前と思えてきて、感覚が麻痺してくる。麻痺というより、あっちが自然な状態かもしれないと今は思えてきている」

彼は結婚していて、子どももいる。

「うちは今のところは浮気はないけど、あそこにいると、この先どうなるか自信はない」

昔はきっとどこでもこうだったのだ。

注:田舎ではどこにでもまだ夜ばいが残っていた戦前のものに出ているわけではなく、戦後すぐの雑誌に思い出としてよく書かれている。

追記:その後、田園調布に駐在所があるのを見つけた。なぜ田園調布に駐在所が必要なのか不明。写真も撮ったが、どこかに消えた。

 

 

娯楽はセックスと酒とエロ話

 

vivanon_sentenceこの町の娯楽はセックスと、酒と、セックスの話をすることだ。農家が多いため、日々、それほど話すこともなく、酒を飲むとセックスの話だ。

その町では何軒かあるスナックが日々の寄り合いになっている。毎日のように男たちはスナックに行く。女たちも時々行く。そこでもっぱらエロ話。

 

 

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