松沢呉一のビバノン・ライフ

ぜいたくは敵だ—女言葉の一世紀 140(松沢呉一)-3,168文字-

吉岡彌生が提唱した国家主義的産児無制限論—女言葉の一世紀 139」の続きです。

 

 

 

日本から興亜へ

 

vivanon_sentence吉岡彌生はよく興亜という言葉を使ってます。

損保ジャパン日本興亜のように今も興亜という言葉が社名に残っている会社があります。合併前の興亜火災海上保険は1918(大正七年)創立。そういう空気が高まってきていた時代です。

「興亜」はアジアを興して欧米諸国と拮抗するアジア主義を意味する言葉で、吉岡彌生は「わが日本」ではなく、アジアの中心に位置する日本の自覚を持つのが新しい良妻賢母主義なのだと主張していました。

前回見た「新しい良妻賢母」に続いて、この一文では「日本から興亜へ」という見出しの文章が続き、最後は「女らしさ」について語られています。

 

 

忘るな「女らしさ」

現在、婦人は生産面、文化面のあらゆる部面に用ひられてゐるが、それに伴って専門程度の学校に進む者も非常に多くなってきた。かつて日露戦争の時、同じやうな傾向が見られた。当時私は、これは職場をもたなければ夫が戦死したときに困るだらうといふ考へからきたものと考へたが、今度の場合はかならずしもさうではなく、一般に女子も教育を受けなければならぬといふところに目覚めてきた結果であるやうに思はれる。

しかし、いくら教養が高いといっても、女はまだ男には及ばないし、実際、社会では何もかも男が先であるから、ここで男のまねをすることは無理である。女の特質を発揮し、男ではできない仕事に進出してゆくことが最も望ましいことである。

また、教育を受けることが女らしくない女になることであっては困る。仕事につくにしても、「男手が足りないから女をたのんだが、女を働かせるると女らしくなくなって困る」といふやうなことを云はれては困りものである。女はどこまでも女らしさを忘れないやうにしてほしい。これが一番大切な点であ。働く婦人、教育を受けた婦人の「女らしさ」は、男性の今までの女性観をも是正するであらう。

 

 

女医という言葉さえ嫌っていたはずの吉岡彌生は、ここでは「女らしさ」を肯定しています。「女らしさ」を身につけていったと言うべきか。おそらくその方が有利であるということを自身が学習したのではないかとも思えるのですが、なんにせよ、国家主義と女らしさの融合がこの人の行動を決定づけていきます。

女は女として国家のためにやるべきことがあると奮闘していくのです。

※東京女子医科大教育・研究棟

 

 

ぜいたくは敵だ

 

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婦人の贅沢についてはこう述べています。

 

婦人も戦士になって

 

或る帰還兵の方がこんなことを仰有ったのを伺ったことがありました。

「戦線へ行ってゐる私共が一番気になるのは内地のことですが、その内地からの報告として、近頃の婦人は、みんな軍需工業とか農業とかに働きに出て、あとに残ってゐるのは働けない子供と老人だけだ等と聞かされまして、可弱い婦人達までがそれほどまでに銃後を守って働いてゐて呉れるのか、それでは自分達も一命を捨てて御奉公するのになんの心残りもないと感謝したものでありました。

ところが、今度内地へ帰還してみますと、大阪とか京都とかいふ大都会を見て来たのですが、さういふところでは、まだ随分派手派手しい姿をした婦人達が閑さうに歩いてゐるのを見受けました。そんなのを見ますと、戦地で聞いた話とは大分様子が違ふと思ってなんだか裏切られたやうな気持ちがしてなりません。」

如何にも御尤もなお話で、その兵隊さんの真剣なお気持ちに私もはっと胸を刺されるやうな気持ちがしたもので御座います。

尊い兵隊さんのお心を曇らすやうな、そんな姿を少しでもお目にかけたことは、なんとしても申訳のないことだと存じます。

(略)ただ一部の不心得者のために、かうした全体の汗みどろの姿が汚されるやうな結果になって、それこそ情けない話だと思ひます。

それで私達も婦人団体の声として、今後は絶対にかうしたことのないやうにと、政府の贅沢品禁止令に協力しまして、贅沢はやめませう、慎みませうといふ運動を進めて来た訳ですが、近頃ではそれが大分婦人方に徹底して参ったやうです。

 

 

贅沢品禁止令」は正式には「奢侈品等製造販売制限規則」で、前年の七月七日に施行されたため、「七七禁止令」とも呼ばれるものです。

 

アエラドットより。ここにも興亜の文字が見えます

 

 

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