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松沢呉一のビバノン・ライフ

ナチスの健康志向と人口論—心のナチスも心の大日本帝国も抑えろ[1](松沢呉一)-2,877文字-


 

ナチスの健康志向

 

vivanon_sentenceナチスは劣っていると見なした種を抹殺する一方で、優れたと見なした種に対しては健康に留意する健康国家であり、母子保護国家であったことは吉岡彌生についての論考で具体的に見ましたが、このことを最初に知ったのはロバート・N.プロクター著『健康帝国ナチス』でした。タバコや酒は排除され、健康のための裸体運動や自然食は推奨され、癌の研究を進歩させ、出産、育児のための施設を拡充。そのため、ナチスを支えていたのは女性たちでもありました。

ナチスの有機農法奨励について書かれた以下の文章も参考になります。

 

講談社「現代ビジネス」10月8日付「エコの代名詞「有機農業」が、ナチスと深く関わった過去」より

 

 

人口論は避けるべきなのか?

 

vivanon_sentenceこの文章は大いに参考になるのですけど、以下の結論部分は違うだろうと思った次第。

 

 

こうしたことを考えていくうえで、わたしも含めてナチス的な考えに陥らないために、今後の有機農業がどのような哲学を紡いでいくべきか。三点ほど指摘して、本論を終えたい。

第一に、排除の構造がないかつねに点検を怠らないことである。有機農産物はどうしても値段が高いゆえに、低所得者層はなかなか買うことも食べることもできない。低所得者層は健康になってはいけないのか、という受け取り方さえされてしまう。実はこの点は、有機農法の関係者のあいだでも繰り返し議論になっている。

そして、できるかぎりさまざまな人々に自分の農作物を届けたいと考えている有機農業の関係者はとても多い。

この議論をさらに進めて、たとえばいまブラジルで起こっているように、高脂肪・高カロリーの食事が多い低所得者層にこそ有機農産物を食べてもらう、という運動を起こすことや(ブラジルの農業に詳しい印鑰智哉さんからご教示いただいた)、通常の流通経路とは別の経路を確保し、たとえば、規格に合わず、あるいは穫れすぎて圃場に廃棄された農産物を利用する試みを進めていくべきだろう。

第二に、人口論に陥らないこと。エコロジストのなかには、地球上に住む適正の人口を主張する人もいる。しかし、こうした類の人口論を支持したのは、ほかならぬヒトラーやヒムラーたち、あるいは、核戦争になったとき誰が核シェルターに入れるかを延々と議論をしつづけたアメリカ政府であった。「限られた空間」に住むことができる人種を選ぶ。こんな議論は絶対に避けたい。

(三点目は省略)

 

 

ナチスにつながる人口論を避けるべきであり、広く一般に人口についての議論をすべきではないとまでは言ってないのかもしれないのですが、そのまま読むと、人口について論じること自体がナチスへの道になると言っているように受け取れます。

人口論を避けるのが正しい哲学とは思えません。ナチスにつながるような人口論に至るのはまずいとして、むしろナチスにならないためには人口に関する適切な議論が必須であり、議論の放棄こそがナチスを生みます。

国家にとって有益なものを賞揚し、有害なものを排除するのがナチスの思想であり、このふたつの側面は対になっています。健康増進法が制定された時に私は強く反発しましたが、身体は個人のものであり、それが健康であらんとすることは個人に属する問題です。そこに国家が介入することが危険なだけでなく、個人が個人の生き方に介入することも肯定します。戦時で言えばぜいたくをし、オシャレをし、男女が交際し、政府の悪口を言うことに婦人団体や隣組が介入するようなことです。

この構造を見抜かないと、「健康になることはいいこと」としてそこに国家が入り込むことを容認してしまう。だから議論が必要です。

そのリスクを避けながら、個人が個人の生き方として健康を求めること/求めないこと、有機農業による作物を食べること/食べないこと、タバコを吸うこと/吸わないこと、酒を飲むこと/飲まないことはそれぞれ尊重されるべきです。子どもを生むこと/生まないことも同様。

その点、人口問題は国家の問題にならざるを得ず、そこにナチスにつながる国家主義を感じ取ることは重々理解できるのですけど、ナチスへの道を回避しながら、その問題を考える必要があります。そうしないと、この国は大日本帝国への道に陥りかねません。

 

 

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