松沢呉一のビバノン・ライフ

「シオン賢者の議定書」の片棒を担いだフォード—ヘンリー・フォードとナチス[2](松沢呉一)-3,938文字-

『世界の猶太人網』と『我が闘争』—ヘンリー・フォードとナチス[1]」の続きです。

 

 

 

フォードはナチスを支持していたわけではなさそう

 

vivanon_sentenceディアボーン・インディペンデント紙の記事と、それらをまとめた『The International Jew』は米国内でも大きな話題となり、同時に反発も起きます。

以下もWikipediaのヘンリー・フォードの項より。

 

 

1922年頃には、「ニューヨーク・タイムズ」等各紙で「フォードがヒトラーを支援している」と言う噂が掲載された。1923年には、ヒトラーは自宅の居間にフォードの写真を掲げ、来訪者に『国際ユダヤ人』をプレゼントしたという。この頃、フォードが大統領選挙に立候補するという噂が流れ、「シカゴ・トリビューン」紙はヒトラーの取材を行い、彼のコメントを掲載した。「私はすぐにでも突撃隊員を率いて彼の選挙運動を支援したいと思う。(中略)彼、ハインリヒ(ヘンリーのドイツ式)・フォードこそは米国におけるファシズム運動育成の指導者である」。この報道は、再びユダヤ系グループの反発を招き、大きな非難を受けた。

1924年2月1日、フォードの家をヒトラーの代理人として クルト・リューデッケが訪問した。作曲家リヒャルト・ワーグナーの息子ジークフリート・ワーグナーとその妻ヴィニフレートの紹介である(共にナチズムと反ユダヤ主義の信奉者)。リューデッケはナチ党への援助をフォードに依頼したが、明らかに断わられた。

 

 

「明らかに断られた」というのは「きっぱりと断られた」ということですが、この姿勢でわかるように、フォードがナチスを支援していたという話はおそらくガセです。

ヘンリー・フォード著『The International Jew』には、ドイツにおける反ユダヤの動きを肯定的に書いているところが何カ所かあるのですが、ナチスの結党から間もない時期ですから、この記述はとくにナチスに限定したものではなく、広くドイツでそのような機運が高まってきていたことを指しています。

また、暴力的にユダヤを排除するような反ユダヤ勢力を批判しているところもあるので、反ユダヤの姿勢は共感できても、ナチスに対しては支持しきれなかったのだろうと想像します。

フォードは批判を浴び、かつ訴訟も起こされたため、自分は書いておらず、名前を使うことだけを承諾したと弁明し、謝罪をした上でディアボーン・インディペンデント紙を廃刊にし、『The International Jew』も発売中止にしています。

忙しいヘンリー・フォード自身が調べて執筆していたわけではなく、編集長なり記者なりがやっていたのは事実ではあっても、掲載されたものさえ読んでいなかったなんてことは考えにくく、おそらくここに書かれたことに一定の同意、同調をしていながら、批判されてよくよく検討してみたら間違っていたことがわかって、慌てて撤回したってところでしょうか。

しかし、長らくフォードの名前で流通し、フォードの名前で影響をもたらしたのですから、以降も『The International Jew』の著者はフォードだということで話を進めます。

※『The International Jew』第一巻。Wikipediaより

 

 

ドイツでの『国際ユダヤ人』の扱いについて

 

vivanon_sentenceなお、Wikipediaの以下についてはおそらく間違いだと思います。

 

 

『国際ユダヤ人』については著作権が複雑化していたが、フォードが訴訟を起こし、1942年に出版停止となった。ドイツでは2012年現在も禁止されている。反ユダヤ主義やネオナチのウェブサイトには今も見られる。

 

 

英語版からの翻訳でしょうが、ドイツ語版Wikipediaには禁止されているとは書かれていないようです。こういうことを言いたがるのはネオナチ側です。「ここには真実が書かれているので、ユダヤ人たちは出版されるのを恐れている」だのなんだの。

我が闘争』が数年前に著作権切れに伴ってドイツでも出版されるようになったように、こういった出版物でも無条件に法で禁止されているわけではないはず。とくに歴史的に意味があると判断されるものについては。

にもかかわらず、長らく出版されていなかったのは『我が闘争』同様、著作権が理由だろうと思います。本人が自分で書いたわけではないとして、発行の中止を求めた以上、ヘンリー・フォードの名前では出せなかったでしょうし、実際に書いた人間もこんなことになってはOKするわけもない。

すでに著作権は切れているでしょうが、著者名は人格権なので、今なおヘンリー・フォードの名前では出せないと思います。

検索してみると、ドイツ語の全文を公開しているサイトがたしかにあります。ネオナチのサイトかどうかははっきりしないながら、批判的注釈を添えてないものは怪しくはあります。

日本でも国会図書館で全文が読めてしまうのですから(抄訳だろうと思いますが)、ドイツで再刊された『我が闘争』のように、しっかり批判した解説をつけて出版し、それを読んだ人がさらに批判した方がいいかとも思いますけど、そう売れるはずのない『The International Jew』を出す出版社はないでしょうから、これをネットで読むのであればドイツ人も「ビバノンライフ」を講読するといいと思います。つうか、ドイツでも批判的に取り上げているものはナンボでもあるでしょう。

Der internationale Jude – Ein Weltproblem

 

 

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