松沢呉一のビバノン・ライフ

ヘソ占いとヘソ露出プレイ—ヘソがエロチックだった時代(上)[ビバノン循環湯 495] (松沢呉一)

「スナイパー」の連載に書いた複数の原稿を合体させました。

ヘソで画像検索をしていたら、次々とマタ・ハリの写真が出てきました。第一次世界大戦の際にスパイをした容疑でフランスで処刑されたダンサーです。当時のダンサーによくあったように、彼女は高級娼婦でもあって、ドイツの将校ともフランスの将校ともセックスしていたため、そのたびに「フランス陸軍のピエールちゃんがこの間の毒ガス攻撃は自分たちの仕業だって白状したよ」「ドイツ空軍のヘルムート君が今度ロンドンに飛行機から爆弾落とすってさ」なんてことをベッドでくっちゃべっていただけじゃないんかとも思えます。今もチンコを出すと客はついつい気がゆるんで、言ってはいけないことを言ってしまうため、風俗嬢たちは情報を持っているものです。聞いた方が悪いのではなく、機密をしゃべった方が悪いだろ。

当時のダンサーは、映画女優の次くらいの人気があって、うちにもマタ・ハリのポストカードやタバコカードが何点かあります。彼女はオランダ人なのですが、バリあるいはインド出身ということになっていて、マタ・ハリもそれ風の名前。実際には彼女はベリーダンスを得意としていて、そのためにヘソ出しなのです。

つうことで、今回の図版はマタハリ特集。

 

 

田口二州のヘソ占い

 

vivanon_sentence田口二州という人物がいた。顔のみならず、乳房、尻、陰毛などを見て、その人の運勢や性的能力を見抜く、いわばセックス占いの大家であり、何冊かの著書も残している。

田口二州はヘソも鑑定する部位としていた。

人間探究」(第一出版社)18号(昭和26年11月発行)掲載の田口二州「乳・ヘソ・性毛と其の神秘」から、ヘソの見抜き方を抜粋してみよう(原文ママではない)。

 

 

ヘソの穴が上位にあるほど知力に秀で、大きくて深いほど財運に恵まれる。さらに穴が上向きであれば理想的で、性的な能力にも恵まれ、積極的な性格で、男女ともに人の上に立てる。

逆に下部にあれば知力が乏しく、小さくて浅いと金にも性的快感にも恵まれないということになる。さらに下向きとなると、性格的にも消極的で、あまり幸せな人生は期待できない。

ヘソの穴が左か右によれているのは、世に言う「ヘソ曲がり」で、背骨が曲がっている疑いがあるため、性生活にも悪い影響があるはず。

縦長のヘソも健康面に問題があって、スタミナがないため、セックスにおいても相手を満足させられない。

デベソは体温が低く、冷え性気味。性格は身勝手で人徳薄く、性的快楽も乏しいため、孤独な人生を送りがち。

 

 

ざっとこんな具合。

アラビアの性書「ジャンダン・パルヒューム」にも、「ヘソは大きく深々と窪んでいなければならない」とあって、大きくて深くいヘソがいいとするのは古今東西に共通するものらしい。しかし、これは当たってないと思う。私のヘソは深くて大きいのだが、ちいとも財運に恵まれてない。

当たっているかどうかはともかく、今の時代にも「おっぱいが大きいのは性的には意外に奥手」「鼻が大きいのはチンコが大きい」などと顔や体の部位をもって、セックスの特徴につなげる人は少なくない。これは経験が根拠だったりするのだが、データをとったわけでもなく、占いに限りなく近い。

しかし、ヘソをもってセックスや性格を語ることはまずない。そもそもそこまで凝視して、形状を把握することもない。他人と比較することもないので、自分のヘソであってさえも、その特徴を的確に言える人も多くはないだろう。

私だって深くて大きいと思ってはいても、本当にそうかどうかは自身がなく、縦に広がっているのは横に広がっているのかもわからない。直接自分で見ようとすると形が変わってしまうし。

では、なぜ田口二州はヘソに注目をしたのか。他の部位をやりつくしたりので、目先を変えてみたのか?

Belle Epoque Postcards ~ Artists ~ Mata Hari

 

 

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