松沢呉一のビバノン・ライフ

トイチがトニに—監禁されたヘルス嬢[4]-[ビバノン循環湯 509] (松沢呉一)

お祝い金という名の借金で縛る—監禁されたヘルス嬢[3]」の続きです。

 

 

 

店の女の子の名義で金を借りてトイチで女の子に貸す

 

vivanon_sentence普通だったら、こんな店、とっとと辞めるところだが、なにしろ借金がある。

カリンはこう言う。

「辞めるわけにはいかないし、無理な出勤も断れない。オープンラスト(開店から閉店までの出勤)が当たり前でしたね。指名用に撮らせた写真が勝手にインターネットに流されたりしても文句を言えない。一番多い子で借金が500万円ありました。この店の看板の子なんだけど、500万でトイチなんて払えるわけがないじゃないですか。この子は会長のお気に入りで、会長のうちに住んでいたから家賃はいらないし、利息もマケてもらって、私がいる時には200万になったって言ってました」

マケてもらったと言っても、もともと不当な利息でふくらんだものだ。

どうやらこの会長、目先のことしか考えておらず、こんな商売をやっていたら常連がつくはずもない。

「酔っぱらいでもなんでも入れる店だったから、夜は混むんだけど、昼間はすっごい暇。昼のドラマは控え室で全部見れた」

それでもやっていけるのは、この店が風俗店であるとともに金融業もやっているからだ。顧客は自分の店の女の子たちである。それによってただ働きさせているわけだ。

「実際、儲かってはいなくて、リネン代が払えずに、一時、別のお店からタオルを借りていたくらい。女の子の名前を使って、金融業者からお金を借りたり。私も名義を貸しましたよ」

ムチャクチャな話である。その金をまた女の子に貸すのだ。

「前の店長はよかったんだけど、その人も会長のやり方が気に入らなくて、店の女の子を連れて飛んでしまって、どんどんひどくなっていった」

いよいよすぐにでも辞めた方がいい店だが、この時に寮の存在が足枷になる。店を移ろうとしても、また引越代が必要となる。

※金山駅。地味ながら、この駅周辺にも性風俗店がある。

 

 

友だちの借金まで肩代わり

 

vivanon_sentenceカリンは、辞めるタイミングを見計らいながら、30万円を返済してからもズルズルとこの店に居続けた。そうこうするうちに、事件が勃発する。

「私を紹介した友だちが飛んだんですよ。この子もホストで170万くらい借金をしていた。社長が激怒して、私を呼びだして、彼女の借金を肩代わりしろというんですよ。“おまえは友だちだろ”って。そんなの、払う義務なんてないじゃないですか。私が拒否したら、ゴルフクラブをもってきて、殴る蹴るですよ。店のすぐ裏に事務所があって、ドアに鍵を閉めて。それで私も怖くて借用書にサインをしてしまったんです」

法的に言えばもちろんこの借用書は無効である。しかし、無効も何も、これ以降、彼女は店に監禁されてしまうのだ。

「荷物は全部取り上げられて店から一歩も出させてくれない。給料は全部返済に回されて1円ももらえない。寝るのも店のベッド、シャワーも店のシャワー。トイレも全部店の中。うちにも帰れないから、下着は毎日手で洗っていた。そのうち、店の子がこっそりと買ってきてくれたんだけど、下着は全部で3枚だけ。服はジーンズとTシャツ1枚だけ。それも着る機会がない。従業員も店に泊まっているから、24時間監視されている。従業員は暴力をふるったりはしないんだけど、他では使いものにならないような人しか残っていないんですよ。“オレらにはどうにもならない。会長の言うとおりにするしかない”って。店の女の子たちは、普通に話をしてくれるんだけど、とばっちりを受けるから、助けようとはしてくれない」

それにしても、深夜、従業員の目を盗んで逃げ出すことくらいできなかったのか。

「だって、現金をもっていないから、タクシーも拾えないし、携帯も取り上げられているから、誰にも連絡がとれない」

警察に行けばいいではないか。

「それはまずいんです。親は私が風俗の仕事をやっていることを知らないから。それに、リスト(フロントのこと)とか入口に隠しカメラがあるから、店から出る前に見つかるかもしれない。もし見つかったら、またボコボコにされる」

風俗嬢という仕事をする女たちの弱みにとことんつけこんでいる。仕事のことを公にしにくいので、暴力や監禁さえも受け入れてしまうのだ。

※Clarence John Laughlin「Birds in Hyperspace

 

 

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