松沢呉一のビバノン・ライフ

業務外の行為に対する懲戒はどこまで及ぶか—懲戒の基準[11]-(松沢呉一)

医師の不祥事二題—懲戒の基準[10]」の続きです。

 

 

医師の倫理

 

vivanon_sentence前々回確認したように、個人の業務外の行為に対しては、業務に影響が出ない限りは懲戒の対象にならない原則があります。ただし、恋愛、離婚、借金にからむ民事的なトラブルではなく、刑事犯罪になると少し事情が違ってきます。

前回見た昭和大学病院の医師のケースでは、なお冤罪の可能性がありますから、客観的に判断できる材料が揃ってから処分を決定するのが筋。違法な行為をやったと判断できた段階で処分することができるのは、第一には拘置、懲役によって勤務が不可能である点に対してです。正当な理由、正当な手続きがないまま出勤できなければ懲戒解雇になるのは当然です。

第二にはこの場合は昭和大学病院の医師であることを相手に、あるいはそれ以外の人たち(おもに店の人)に自ら知らしめている可能性がある点。これによって、昭和大学病院の信頼、医師に対する信頼を落としています。

第三には重大な犯罪の場合は個人名、職業、勤務先までを警察が発表し、報道されるため、病院の、あるいは医師の信頼を落とすことになる点です(警察発表や報道によってそれらが特定されることをもって懲戒されることが妥当かどうかは議論がありますが、ここでは飛ばします)。

第四には医師の倫理に反する点です。この場合は準強制性交に至らずとも、睡眠薬を使用していることだけでもそれに該当しそうです。医療関係者ではない人が、市販の睡眠薬を使うのと、医療関係者が職業上手に入れた睡眠薬を使うことでは意味合いが違います。市販の睡眠薬であっても、医療関係者が薬を悪用することは倫理に反しましょう。

これらはこの事件に限らない非違行為の基準になっています。

※医師会が出している「医師の職業倫理指針」は業務内での倫理なので、今回のこととはあんまり関係がない。

 

 

非違行為とは?

 

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懲戒処分になる会社員なり公務員の言動を非違(ひい)行為と呼びます。もとは公務員の非行行為・違法行為を指す言葉で、とくに懲戒処分の対象になる行為を意味し、民間企業でも使用されます。ここでは行政機関、民間企業を問わず、懲戒処分の対象になる行為の総称とします。

では、非違行為はどういう基準で決定されているのかを見て行きましょう。

非違行為の要件については独立行政機構「労働政策研究・研修機構」のサイトにわかりやすくまとめられています。

 

 

 

2がちょっと難しい。「必ずしも労働者の行為により具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生があったことまでは要しない」とあるのは、「その人物の勤務先が知られていれば事足りて、そのために不利益が発生したかどうかは問わない」という意味だけではなく、「誰一人その行為者の勤務先がわからないとしても、ここにある条件を満たす行為については非違行為になる」ってことなのだと思われます(以下の判例参照)。

確実に懲役刑になって出勤できなくなるような重大な犯罪(殺人とか強盗とか放火とか)をやった場合や、自ら勤務先がわかるようにした状態で会社の信用に関わるようなことをやった場合に懲戒になるだけじゃなく、もう少し非違行為の範囲は広い。

 

 

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