松沢呉一のビバノン・ライフ

ISK(国際社会主義戦線同盟)の傑作な地下活動—白バラを乗り越える[下]-(松沢呉一)

ゲシュタポ、こええよ—白バラを乗り越える[上]」の続きです。

斜体のかかった人名は「白バラ・リスト」に項目がありますので、詳しくはそちらを参照のこと

 

 

ISKの非公然活動家の行動

 

vivanon_sentenceH. フォッケ /U. ライマー著ナチスに権利を剥奪された人びと』に出ている証言では、とくにISK(国際社会主義戦線同盟/Internationaler Sozialistischer Kampfbund)にいたフリッツ・エバーハルト(Fritz Eberhard)という人物の話が抜群に面白い。彼は捕まっておらず、戦後まで生き続けているので、沈鬱な気分にならなくて済みます。

ISKは、ナチス政権以前に、社会民主党や共産党から追放されたような人たちのグループで、ナチス政権樹立以降は地下活動を開始して、国外で雑誌を出し、それを国内に持ち込む活動もしていました。

フリッツ・エバーハルトはこの中心メンバーの一人で、この名前は活動家名であり、本名はヘルムート・フォン・ラウシェンプラット(Helmut von Rauschenplat)。このフォンは本物の貴族であることの表示であり、オカルティストたちの偽フォンとは違います。戦後もフリッツ・エバーハルトという名前を使い続けています。ハッタリ連中の逆方向。

彼は数年間ドイツ国内で非公然地下活動をやっていました。国内外を行き来する相当にリスクの高い任務を負っていたのですが、生き延びることができたのは「自己防衛策」に気を遣っていたからです。

地下活動をする仲間が、どこの家に同志がいるのか外からわかるようになっていて、突然そこを訪れても、泊めてもらえる約束になっています。その目印が地域ごとに違うので、全部記憶をする。たとえばそれはカーテンの閉め方だったりする。万が一、その情報がゲシュタポに漏れても、カーテンの閉め方だと、偶然だと言い張れます。

こういった約束事がさまざまあって、メモを残せないので、つねに数十という単位の約束事を覚えなければいけません。マンションの暗証番号が時々変更になるように、約束事は時々変更され、そのたびにリセットをしなければならない。

ホテルに泊まる場合、安ホテルは疑われやすく、ゲシュタポがいきなり踏み込んでくることがあるので(日本で言えば臨検というやつです)、ヒトラーが泊まる高級ホテルを使用する。

仲間が用意してくれた車に乗り込んだら定員オーバーだったため、「これで逮捕されるのは馬鹿げている」と怒ったとエバーハルトは言っています。このくらいの注意は当たり前のことだと思うのですが、当時のドイツにも脇が甘いのがいたのです。

エバーハルトは、もっとも大事なことは「目立たないこと」だと言ってます。アジトには疑われないようにハーケンクロイツを出す。それに抵抗するのもいて、譲歩して小さなハーケンクロイツにしようとして、エバーハルトは「大き過ぎも小さ過ぎもしないごく普通の旗を出せ」と要求しています。ここで個人のこだわりは不要であり、危険なのです。

※Bernd Sösemann著『Fritz Eberhard Rueckblicke auf Biographie und Werk』は評伝ではなく、フリッツ・エバーハルトの業績をまとめたもののよう

 

 

ゲシュタポの裏をかく

 

vivanon_sentence抵抗者の存在を国民やナチスに知らしめることもやっているのですが、相手に手口を読まれないように、つねに新しいアイデアを考える。これが傑作です。

 

 

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