松沢呉一のビバノン・ライフ

東京芸大大学院は勝海麻衣を懲戒処分すべきか否か[上]—懲戒の基準[22]-(松沢呉一)

懲戒の基準」としては「末次由紀に対する講談社の姿勢が手本—懲戒の基準[21]」の続きです。著作権侵害としては「勝海麻衣作品に見る「著作権法上の特例が外にはみ出てしまった例」—ゆるゆる著作権講座 13」の続きです。

 この辺のシリーズでは、敬称をどうするかちょっと迷ってました。通常私は「著名人呼び捨て原則」を採用。名前を売ってナンボの芸能人やミュージシャンもだいたい呼び捨て。また、極親しい人も呼び捨て。しかし、深井智朗、勝海麻衣両名の名前はこれまで私は認知していなかったので、私にとっては著名人という印象でもなく、元教授といった肩書きをつけたり、「さん」をつけたりもしていたのですが、二人とももう著名人でしょうし、刑事事件になったわけではないながら、「悪人」ですから、原則、敬称なしにします。それ以外の人は、今まで通り、「氏」や「さん」をつけたり、肩書きをつけたり。

 

 

勝海麻衣に対して大学はなんら対応しなくていいのか?

 

vivanon_sentence東京芸大大学院が勝海麻衣を退学処分にするという憶測が少しだけ流れたようですが、そのような動きは今に至るまで見られません。卒業大学の武蔵野美術大学が卒業取消にする動きも見られません。

卒業大学の武蔵野美術大学は、卒業後の活動に直接の責任はないとしても、卒業制作に盗用があったとの指摘がなされているのですから、それについては調査し、なんらかの処分があっていいのではないか。

また、在学している東京芸大大学院については、今のところわかっている範囲では学外の活動での盗用ですから、これも直接の責任はないとして、たとえばコカインをやって逮捕されたら、一発で退学処分にされそうだし、大麻でも停学は免れそうにないのに、盗用だとおとがめなしはどうなんか。コカインや大麻より盗用の方が、大学院でのテーマに関係している分、処分対象になっていいように思います。

会社員で言えば職業倫理に抵触するケースです。出版や著作権にまったく関係のない業種の会社員がパクリの同人誌を多数出して問題になっても懲戒処分なしでいいとして(副業の問題は横に置く)、出版社の社員が、社名を明らかにしてパクリの同人誌を多数出して問題になったら、解雇されても仕方がないのと同じです。

会社が社員の私生活に踏み込むことに抵抗の強い私でも、この場合は私生活の行動で懲戒処分にする条件に合致するので納得するしかない。

しかし、武蔵野美術大学も東京芸大もそうすべきかどうかについて当初判断がつきませんでした。教員の懲戒についてはそれなりには見てきてますが、学生の懲戒については詳しくないし、各大学、ルールが違います。

そこで、ざっと調べてみました。結果を先に言っておくと、すっげえ面倒です。調べて、考えること自体が面倒であったともに、各大学もこれについての処分は面倒です。

だいたいわかりましたが、ここ数日でも、私の考えは揺れてます。

勝海麻衣作品に見る「著作権法上の特例が外にはみ出てしまった例」—ゆるゆる著作権講座 13」に、こう書きました。

 

 

今から大学の責任を問うのはムチャクチャ難しい。一通り、武蔵野美術大学の規程をチェックし、これまでの判例をチェックしましたが、武蔵野美術大学に対して「遡って卒業を取り消すべし」とは言いにくい。規程上、可能ではあるのですが、そうやすやすとは踏み込めないでしょう。

せいぜい、今回の件を踏まえて、再発の防止を期待するのみ。

 

しかし、今はなんらかの対応をしないと筋が通らないのではないかと考え直しつつあります。卒業を取り消さないで解決する方法もあると思いますので、それも検討します。

以下、見逃している規程があるかもしれないですし、おかしな解釈をしている可能性もあるので、全然自信はなく、できるだけ該当の規定は転載しているので、それと照らし合わせて各自考えてみてください。

Googleストリートビューより東京芸大正門

 

 

一般に学生に対する処分は範囲が広い

 

vivanon_sentence

「学生なんだから、そんなに厳しくしなくてもいいのではないか」という意見もありましょうが、学校のルールは必ずしも甘くない。運用は甘いところがあるかもしれないけれど、学生に対する規則は、社員に対する会社の規則よりしばしば厳しい。

たとえば年齢的にはバイクの免許が取得できるのに、免許をとること自体を禁止している高校が今もあります。バイクの「三ない運動」はほとんど崩壊して見直しが進みながらも(以下の記事参照)、なお高校によってはこの方針を維持していて、とくに私立の高校では、校則の幅は広く認められています。

正しく交通法規を理解した上で正しい乗り方を指導した方が適切な安全対策ができるにもかかわらず、規則を厳しくし、重罰化をすれば解決すると思い込んだ人々の悪しきパターナリズムがよく出ています。

「交通事故や飲酒運転を起こさないため、社員が免許を取得することを禁止する」とし、それがバレて懲戒解雇にする会社なんてあり得ないですが、学校では現にあります。学校のルールが法律を上回る例です。

とくに小中高は「生活指導」「生徒指導」の範囲として、学外での指導までが期待されているため、私生活の指導や懲戒は社会人に対するより遥かに厳しくすることが容認されていて、「学生の本分」を基準として、しばしば法律を上回る校則が認められ、それに基づく処分が実施されています。それに効果があるのかどうかはどうでもよく、学校と生徒の約束事は有効という考えです。

その場合、禁止している行為を校則で明示しておく必要があるでしょうけど、「学生の本分に反する行為」といったように曖昧な表現になっていることも多くて、学校の裁量権が広く認められる傾向があります。会社員であれば職業倫理に該当しますが、「学生の本分に反する行為」は範囲がだだっ広くて、学業と生きていくための最低限の行動以外、全部該当しかねない。

これは社会一般、学生がやるべきではないとされている範囲が広いことを背景にしています。多くの人が「組織が個人の領域に介入すること」に抵抗がなく、とりわけ学生に対してはそうなのです。社会は必ずしも学生に甘くない。

「学生だから大目に見る」という考え方と、この厳しい校則とは一見矛盾しますが、どちらもパターナリズムに基づくものでしょう。一人前の大人として扱っていない。

18歳未満ならそれでもいいとして、大学になると大人扱いなので、高校よりは役所や企業のルールに近づきますが、同じというわけでもない。そのルールに照らした時に、勝海麻衣を停学にしたり、卒業取り消しにすることは筋としては間違っていない。しかし、そうすることには躊躇することが想像できます。

この躊躇は東京芸大大学院と武蔵野美術大学とでは意味が違い、そのことを各校の規程と過去の実例に照らして確認していきます。先に言っておきますが、ルールの確認が主ですので、面白くはないです。

※2018年5月9日付「BIKE LOVE FORUM」より

 

 

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