松沢呉一のビバノン・ライフ

不正な著作物の責任の取り方/大学と版元—懲戒の基準[19]-(松沢呉一)

東洋英和学院と創価大学の処分の違い—懲戒の基準[18]」の続きです。

 

 

大学の責任はどう果たされるべきなのか

 

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私立大学は諸規程を公開する義務がないですが、どこの大学でも教員による学問上の不正については禁止する規程があるはずです。創価大学にだってあります。盗用は教員の倫理綱領違反です。

それを踏まえて、どこの学校にも懲戒規程があって、大学側はそれに基づいて懲戒処分する責務があります。創価大学は懲戒規程を公開していないですが、盗用は懲戒対象だと思うんですけどね。盗用にも軽重がありますけど、公表された内容を見る限り、外部の信用より、内部の恩情を優先させたとしか思えません。

対して東洋英和女学院では、捏造疑惑が表面化した段階で速やかに調査委員会を設置して、東洋英和女学院大学研究活動上の不正行為防止に関する規程」の定義の(1)捏造(3)盗用(5)立証妨害(言い逃れをし続けたこと)に該当するとして深井教授を懲戒解雇にしたのは規程通りの望ましき流れです。

これで規程上の学校の責任は果たされているでしょうし、信頼がどん底まで落ちることを防いだ感があります。外部からの批判が高まっているのに対して内部の論理で守ってしまったり、軽い処分で居座らせたりしたら信用ががた落ちになるところでした。ただでさえ女子大は存続の危機にあるのに(東洋英和女学院大学の倍率はそんなに悪くないですが)。

その上で若干気になることがあります。

ストリートビューより東洋英和女学院中等部・高等部。六本木のあの辺は歩いたことがあるはずですが、全然記憶にない。大学は横浜なんですね。

 

 

早い段階で指摘されていた不備

 

vivanon_sentence東洋英和女学院大学の報告書で以下のような指摘がなされています(被告発者は深井智朗・元教授)。

 

被告発者は、本件著書及び本件論考を発表した当時、日本基督教学会に所属していた。その学会誌である「日本の神学」の書評において、被告発者の著作についてはこれまでにも複数の学会員により出典不明の引用や不正確な注などの指摘をたびたび受けていたことが分かっている。

 

今回の騒動のきっかけを作った小柳敦史・北海学園大学准教授も早くからそのような指摘をしていた一人です。。

小柳敦史氏は日本基督教学会の学会誌「日本の神学」第52号に『ヴァイマールの聖なる政治的精神』の書評を書いており、その最後にこうあります。

 

 

最後に評者を引き受けた責任上看過できない点として、資料の取り扱いに関する信頼性の問題について触れなくてはな らない。深井氏の著作に関しては同様の指摘がすでに本誌四九号で水谷誠氏によってなされているが、本書でも出典が明らかにされない引用や注における不正確な参照指示および書誌情報が多数認められる。(略)

 

 

付記といった扱いながら強い調子で信頼性に欠ける点を指摘しています。この書評は本が出た翌年の2013年に発表されたものです。本が出て間もない段階からこのような指摘がなされていたのです。

ほぼ学会関係者しか見ないだろう場での指摘であり、盗用、捏造、改竄といった不正の指摘には至っていない内容ですから、これをもってすぐさま大学(当時は金城学院大学教授)が調査を開始するようなものではないですが、このような指摘がたびたびなされていたにもかかわらず、東洋英和が迎え入れ、学院長に就任させたことの責任が一切ないとは言えないかと思います。

すでに懲戒解雇処分にした以上、その対象が学内におらず、よってこれで調査委員会による調査は打ち切りということになりましょうが、懲戒処分のための調査とは別に、少なくとも東洋英和在職中の著書や論文はすべて調査する必要があるのではないか。

ただでさえ面倒くさいのに、これ以上やってられないのもわかるのですけど、そういう人物を教授・学院長にしてしまった点、学外からの批判が高まるまで内部では気づいていなかった(あるいは気づいていながら放置した)点については学校側にもいくばくかの責任があります。

その責任は、東洋英和で教授職をやってきた期間にその立場によって公表された著作物について調査し、公表することで果たされて、場合によってはその間の報酬、研究費の返済を求め、学校の信用を落とした点について損害賠償請求をする選択も検討していいだろうと思います。

独シュピーゲル誌は捏造をやっていた記者を刑事告訴したと報じられていて(その後の報道を見ると、やはり告訴したようですが、詳細はわからない)、東洋英和もそのくらいの厳しい措置をとっていいケースです。そうしなかったからと言って非難されるものではないとして。

なお、小柳敦史氏の書評に目を通したら、ヴァイマールの聖なる政治的精神』を読みたくなっちまったぜよ。不正箇所の確認をしたいのでなく、純然たる内容に興味を抱きました。ナチスに至るドイツの空気を理解するには参考になりそうだし、私でも十分理解できそうです。買うか。えっ、もう売ってないの?

東洋英和女学院のサイトから、2017年9月17日に行われた深井智朗院長就任式

 

 

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