川越市の秀明学園に損害賠償の支払いを命ずる判決—懲戒の基準[28]-(松沢呉一)
「全体主義に抵抗するために時間をかけて考える—懲戒の基準 27」の続きです。
私立中学の退学処分に194万円の損害賠償の支払い命令
前回、まとめのようなものを書いてしまったので、このシリーズは終わってもいいのですけど、次のシリーズのために、さらに続きます。
大学が処分規程を整備しているのは、研究活動の不正を防止すべしとの文科省からの要請によるものであり、もうひとつサブの理由として、退学処分を不服とする裁判が増え、しばしば学校側が負けている現実を指摘しました。
最近もこんな報道がありました。
少年を退学処分、友人と火遊びで床焦がし 少年が学園を提訴 さいたま地裁、学園に賠償命令 学園は控訴
川越市の学校法人秀明学園が運営する秀明中学校に在籍していた少年(16)が寮で火遊びをして退学処分になったのは違法として、少年が学園に約277万円の損害賠償を求めた訴訟で、さいたま地裁川越支部(斎藤憲次裁判長)は「退学処分は裁量権を逸脱し違法」として、学園に約194万円の支払いを命じる判決を言い渡した。判決は13日。学園は控訴している。
判決文によると、少年は2017年11月、拾ったライターを寮に持ち込み、数人と火遊びし、床を焦がすなどした。学園側は「学校の秩序を乱し、生徒の本分に反した」として同月、少年と友人を退学処分にしていた。
少年側は「判決では少年の成長ややり直しについて、学校全体の利害を超えて判断していただいた」と話した。学園側は「訴訟については、全て代理人に任せている」としている。
——2019年6月20日付「埼玉新聞」より
秀明学園は全寮制の中高一貫の共学校です(高校は通学と寮との選択制)。
判決内容が十分にはわからず、学校のサイトでも、これについてのコメントは出ていません。校則や処分規程も公開されていないので、はっきりしたことはわからないし、控訴審でひっくり返る可能性もありますけど、現状わかる範囲で言えば、この判決には合理性がありそうです。
ここまで見てきたように、大学でも処分になる行為を「学生の本分に反する」といったアバウトな言葉で説明するだけの学則になっていることが今もあるのですが、これは学校では裁量権の範囲が広く認められているためです。企業が「社員の本分に反する」としか規定しないまま、刑事事件にもならない勤務外での行為で懲戒解雇にしたら、裁判では不当という判決が出ることが多いと思います。
その点、社会人と学生は別とは言えども、過重な処分は不当と見なされます。
社会一般の感覚と裁判所の判決のズレ
学校の処分を調べている時に、退学処分を不当とする裁判で原告が勝訴している例がいくつも出てきて、「ははあ、こういう時代になったのだな」との思いがありました。しかし、おそらく世間一般の人たちも学校もこれについていけていないことが多いと推測できます。
今回の判決に対する「調べることも考えることも苦手な人々の群れ」を御覧下さい。
Togetterより
どうせなんも考えていない人たちですが、さして考えていない時にこうなるってところに注目したい。
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