松沢呉一のビバノン・ライフ

洋泉社消滅と映画の見方の変質—メディアをめぐる不可解な現実[14]-(松沢呉一)

「表現の不自由展」と陳腐な学者の陳腐な論—メディアをめぐる不可解な現実[13]」の続きです。

 

 

 

洋泉社消滅とその背景

 

vivanon_sentence 洋泉社が宝島社に吸収されて解散するって話は関係者から聞いていたのですが、正式発表があるまでは内密にして欲しいってことだったので、タバコ屋のおばちゃんにも、銭湯のおじちゃんにも、バングラデシュ人のコンビニ店員にも言わないでいました。

でも、洋泉社のサイトから発表される前に朝日新聞に書かれてしまって、「話が違う」と思いました(報道によると宝島社の方から発表があったらしいのですが、サイトでは見つからず)。

映画秘宝」やその関連のムック、書籍はなお利益を出していて、原稿料も落としていなかったらしいのですが、他が赤字。

細部までは聞いてないですが、おそらくこれまでも他は売れてなくて、映画関係の出版物で穴埋めしていたのが、こちらも落ちてきていて赤字を埋められなくなったってことではないかと想像しています。そのため、「映画秘宝」はよその版元で継続して出せないか模索中とのことでした。

採算がとれていたんだったら、経費を削減して出し続けることは可能でしょうが、映画関係の出版物も厳しくなってきているのは間違いない。とくにここ数年の落ち込みが激しくて、Netflixを筆頭とした定額見放題の動画配信の影響が大きいと言われています。すでに世界的に映画の興行収入は映画館よりネット配信が上回っていて、パッケージソフトは年々売り上げを落とし、セルもレンタルもショップはひたすら減ってます。残っている店舗でも、実感としてDVDはまるで売れなくなっているらしい。

映画の見方が完全に変わってきていて、24時間ナンボでも観られる時代になると、もはや飢餓の状態がないので、空白を文字で埋める必要がない。観た映画をさらに深く知りたいという欲求は残りますが、知らないものを探すのであればネットで探せてしまいます。

 ※2019年12月19日付「朝日新聞デジタル」掲載「「映画秘宝」休刊へ 発行の洋泉社、宝島社と合併で解散

 

 

映画の見方が変わり、意識も変わる

 

vivanon_sentence映画もザッピングで観る時代です。前にゲームをしながらアニメを電車の中で観ている若者がいたことを書きましたが、このような「ながら」は今や全然珍しくないらしい。私も香港の中継はほとんどつねに「ながら」ですしね。

電話番号を覚えなくてよくなったことと覚えられなくなったこと—メディアをめぐる不可解な現実[12]に書いたように、たかが電話をする道具でしかなくても、固定電話から携帯電話への変化で、さまざまなところに影響が出て、意識までが変化している可能性があるのと同じく、情報を知るツールでしかなくても、既存メディアからインターネットに移行することで、同じようなことが起きているはずです。

小さな画面で観ること、際限なく観られることによっても意識の変化は生じていますが、必ずしも薄くなっているわけではない。とことんあるジャンルのものを観ていくことも可能ですから、特定ジャンルや監督、役者、脚本家、映画音楽についてはムチャクチャ詳しいのも出てきているはずで、ここでも「深さ」と「浅さ」が同時に進行していることが想像できます。

この時にゲームをしながらアニメを電車の中で観ている若者の姿だけで、「今の時代は映画の見方も薄い」と大雑把に語ると間違えます。これは今の時代の一面でしかない。それをやってしまったのが日大危機感理学部の先崎彰容教授です。

※2019年3月22日付「The WALL STREET JOURNAL」掲載「世界の映画興収、ネット配信が劇場を逆転

 

 

 

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