松沢呉一のビバノン・ライフ

セックスからユダヤ人虐殺までを担当した秘書たち—ジャパニーズ・サフラジェットとナチスと包茎と田嶋陽子[9]-(松沢呉一)

ユダヤ人を森に放って狩りをするドイツ人たち—ジャパニーズ・サフラジェットとナチスと包茎と田嶋陽子[8]」の続きです。

 

 

 

酒を飲みながら虐殺は行なわれた

 

vivanon_sentence 残りの人たちは「資料編」を見ていただくとして、もう一人だけ本編で取り上げておきます。ヴェラ・ヴォーラウフ(Vera Stähli Wohlauf)です。

ヴェラ・シュテーリは5歳の時に父を亡くし、職業訓練校に通い、事務の仕事をしていましたが、母が急死したのを契機に、イギリスに渡り、半年後帰国。

政治には関心がありませんでしたが、力を持ちつつあったナチスの組織に参加することが有利だと判断し、1933年から35年まで、労働組合を潰し、ユダヤ人、共産主義者、社会主義者を追放する活動をしていたドイツ労働戦線で働きました。

ハンブルクで裕福な商人と結婚しましたが、子どもができず、1942年に離婚。しかし、その前に悪名高き殺戮部隊である予備警察大隊101の指揮官であるユリアス・ヴォーラウフ(Julius Wohlauf)との関係が始まっていました。

ユリアス・ヴォーラウフは1913年生まれ。学校を出たあと、ナチスの党員になり、親衛隊に参加。警察に入って副官になってから、予備警察大隊101に配属されます。

結婚間もなく、ユリアスはポーランドに赴任し、ハネムーンをボーランドで過ごすべく、ヴェラもこのあとを追いました。

1942年8月25日と26日、ミェンジジェツ・ポドラスキのゲットー一掃計画が実施され、1万1千人のユダヤ人が広場に集められ、歩けない者はその場で銃殺され、道端に死体が積み重ねられ、約1万人が列車に積み込まれ、ガス室に送られました。

この計画には将校たちの妻や看護婦たちも立ち会っていて、その中に、軍のコートを着たヴェラもいました。目立ちたがりやのヴェラは、鞭を持って広場に集まったユダヤ人の中を歩き回っていたとの証言があります。この時、ヴェラは妊娠2カ月でした。

この計画については複数の研究者が詳細に調べていて、虐殺を実行したSS隊員の中には、新婚旅行中の花嫁が虐殺の現場に来て男同様の振る舞いをすることに不快感を抱いたもいたことが明らかになっています。「これはオレらの仕事、女の出番ではない」ってことかと思います。

ユリアスは戦後逮捕されながらも釈放され、電気会社を設立したのち、1951年に警察署長になったのですが、1963年に8,000人殺害の幇助容疑で逮捕され、懲役8年の刑を受けています。

その件でヴェラも尋問を受けていますが、広場にいたことを認めながら、すっとぼけや妊娠していたことで同情をひくなどして責任を追及されることはありませんでした。

そうではなくても、直接殺害に手を貸したわけではないので、罪を問えなかったのだろうと思います。

この作戦の写真が残されていて、広場にはドイツ人の見物人が笑って見ていると書かれています。ポグロムやリンチの見物人が笑っているのと同じです。本書にはこの写真は出ておらず、ネットでも見つかりませんでしたが、ヴェラは多くの野次馬と同じく、ただの見物人としてそこにいただけとも言えるわけです。

ユリアスが服役中にヴェラは死去。死因は書かれておらず、ネットで検索してもわかりませんでした。

※ブラジルで出たポルトガル語版『As mulheres do nazismo』。上部の写真は英語版と同じくリーゼル・リーデル。下に使われている写真はヴェラ・ヴォーラウフと夫のユリアス・ヴォーラウフ。なぜ長閑な食事風景の写真が表紙に使われたのか奇異に思うところですが、虐殺の時の写真ではないかと見られているのです。このように間に食事をし、酒を飲みながら長時間にわたって虐殺は行なわれました。

 

 

虐殺とセックスがつながっていた

 

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ここまで見てきたように、秘書の役割は幅が広い。虐殺からセックスまで。

女たちにもホロコーストの責任があった」と考えるウェンディ・ロワーは秘書には絶大な力があったことがよくわかるように記述しています。秘書に目をつけられると、前線に飛ばされることもあるため、男たちも秘書には逆らえませんでした。東部においては男たちは次々と前線に送られていくため、事情に通じているのは同じ場所で仕事を続ける秘書たちでした。秘書がいないと業務がストップしてしまうため、必然的に彼女たちは権力を得ていきます。

 

 

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