松沢呉一のビバノン・ライフ

南アでロックダウンは必要だったのか?—帰国した殺人犯から考えたこと[1]-(松沢呉一)

 

殺人犯と南アのロックダウン

 

vivanon_sentence17年前の殺人事件で南アから帰国した紙谷惣容疑者の件ではついフェイスシールドが気になってしまったのですが、ほかにも気になることがいっぱいあります。

南アでどんな生活をしていたのかも気になりますし、ロックダウンで生活ができなくなったという話も気になります。

もし南アでロックダウンしていなかったら、その地で生涯をまっとうすることができたのかとか。現にここまで捕まらなかったのだから、南アという選択は間違っていなかったわけですが、「南アに逃げれば捕まらない」なんて知恵は一般には流通していないわけで、どこでどうして南アに逃げようと思ったんだろうとか。しかし、主犯格は自殺したようなので、逃亡生活はさぞかし辛かったんだろうなとか。

南アについてはたびたび取り上げていますが、当初からロックダウンには批判があって、その批判が正しかったことはすでに明らかでしょう。狭いところに何人もの家族と生活している貧困層の間で感染は避けられないし、病院にも行けない。

アフリカでもっとも厳しいロックダウンをした結果は、アフリカで抜きん出て多い感染者と死亡者でした

南アではDVが多いことが以前から問題になっていて、ロックダウンで激増するとされていたのですが、これは外れました。世界的にロックダウンによるDVの増加が報告されているのに対して、南アではDVの件数が減少しました。

こちらの記事は大きくふたつの理由を挙げています。ひとつは南アでは酒の販売までが禁止されたことです。もうひとつは警察が把握できないケースが増えたってことです。

これまでであればDVから逃れるために家の外に飛び出し、見かねた近隣の人が通報することもあったことでしょう。ところが、夜間は外出が一切禁止されたため、助けを求めることもできなくなったのだと。外に出ようものならいたるところにいる治安部隊によってゴム弾を撃たれ、DVよりひどいことになりかねない。

ただ、DVによって病院に運ばれる数も減っていて、外出できないからと言って、救急車を呼ぶことまでが抑制されるのかどうか、ちょっと疑問ではあります。

そんな疑問もありつつ、そのロックダウンで指名手配犯が逮捕されることになるのは皮肉だなあとか。

※2020年7月1日付「THE CIRCLE

 

 

ロックダウンで食糧危機が深刻に

 

vivanon_sentence数字を確認したように、南アの特徴は、ロックダウンするとともに感染者が増加したことです。ロックダウンを延長しても増え続け、そのために経済が破綻して失業者が増大。8月に入ってからやっと感染者数が減少に転じています。ロックダウンのために増加したとまでは言えなくても、ロックダウンは効果がなく、ただただ経済的破綻を招いただけだったと言っていいのではなかろうか。あとはDVが減ったかもしれないのと日本人の殺人犯が捕まったのがプラスの効果。

ロックダウンによって少しはピークを遅らせることができた可能性は否定できないながら、そのために生活が困窮する人々を激増させるほどの意味があったのかどうか。ないでしょ。

 

 

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