重要なポイントについては決定的な証拠が出てこない—閆麗夢の主張を検討する-(松沢呉一)
中国から米国に亡命した閆麗夢
この間、ひさびさに「Making-Love Club」(現在活動休止中)の中川えりなに会ったのですが、その時に、米国に亡命した中国人のウイルス研究者の閆麗夢(Li-Meng Yan)の話になりました(「閆」は「閻」の簡体字ではなく異体字で、日本にも「閆」という漢字はあるのですが、「閻」が日本や香港ではしばしば使用されています)。
中川えりなは、ナチスの協力者のふりをしてスウェーデンに依頼されてスパイをやったノルウェーの女優の映画「ソニア」を観てきて、スパイの話から亡命者の話になったんだっけな。
日本語版にはまだないですが、閆麗夢については英語版Wikipediaに項目ができているので、詳しくはそちらを参照のこと。
私はこう話しました。
「亡命者の告発は亡命先の思惑に左右されるし、守ってもらうために、自身の存在を過大に見せることがあるので、慎重に見た方がいい」
そう思って、ここまでずっと閆麗夢の動向をチェックするに留めていたのですが、昨日になって大きな展開がありました。
あんまり日本では、この人のことが取り上げられておらず、取り上げることを躊躇するのは理解できるのですが、中川えりなもそうだったように、閆麗夢の存在を知らない人もいるようなので、軽くまとめておくことにしました。
※「ソニア」のモデルとなったソニア・ヴィーゲット(Sonja Wigert)がスパイだったことは早くに公開されていたのですが、その全貌がわかったのは公文書が公開された2005年なんですってよ。真実がわかるには時間がかかります。
FOXニュースのインタビューと香港大学の反応
閆麗夢が大きな話題になったのは、亡命後、初めて受けたFOXニュースのインタビューです。7月10日のことです。
亡命したのは4月28日ですから、2ヶ月ちょっと経っており、この間に米政府の聞き取りや裏取りは済んでいて、何をどう公開していくかの調整も間違いなく済んでいます。よどみなく整理された内容を語っている様子からもそのことは推測できます。
彼女の亡命には郭文貴(Guo Wengui/Miles Kwok)が関与しています。この人についてもWikipediaを参照してください。自身、中国からの亡命者であり、以前から「新型コロナウイルスは武漢ウイルス研究所が作り出した生物兵器である」という情報を流していた人物です。根拠はない。
本当かどうか知らないですが、郭文貴は、今後の生活の面倒を見ることを条件に閆麗夢を亡命させたとの話もどっかに出てました。直接には米政府より、この人脈が仕切っていそうです。
郭文貴自体、ものすごく怪しくて、対中国とともに対米国との関係において閆麗夢をうまく使おうとしているとも推測できます。
香港大はこのインタビューの翌日に声明を出していて、彼女が香港大の研究員であったことを認めた上で、彼女のインタビュー内容は「事実と一致していない」「科学的根拠はなく、伝聞である」と主張し、「これ以上はコメントしない」と片づけています。
「事実と一致していない」とする点について具体的に挙げたのは一点のみ、「伝聞である」とする点については具体的には挙げておらず、議論にならないように逃げを打っています。
これまた怪しくはあるのだけれど、この反応が閆麗夢の主張の正しさを証明するものではなく、私自身、彼女の言っていることには伝聞や推測、誇張が相当入っているだろうと見ています。
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