松沢呉一のビバノン・ライフ

43人の大学生は行方不明のままだわ、国防相は麻薬カルテルとグルだわのメキシコ—ポストコロナのプロテスト[26]-(松沢呉一)

マスクをしてなくて警察に殺された人と背中に火をつけられた警官—ポストコロナのプロテスト[25]」の続きです。

 

 

政治家も警察も軍隊も麻薬組織もすべてグル

 

vivanon_sentenceメキシコの警察が横暴で、腐敗していることの背景にあるのはあまりに強い麻薬カルテルです。これについては日本でもしばしば報道されているので、さらりと済ませますが、最大規模のシナロア・カルテル(Cártel de Sinaloa)、米国禁酒時代から活動をするガルフ・カルテル(Cártel del Golfo)、もっとも戦闘能力が高いと言われるロス・セタス(Los Zetas)、ミレニオ・カルテル(Milenio Cartel)から分離したハリスコ・ヌエバ・ジェネラシオン(Cártel de Jalisco Nueva Generación)が現在の主要カルテルであり、これらが政府軍と闘いながら、互いに勢力拡大の抗争を繰り広げています。

つい数日前に、サルバドル・シエンフエゴス(Salvador Cienfuegos)前国防相がシナロア・カルテルとつながっていた容疑で米国で拘束されたことがこの問題の根深さをよく物語ります。カルテルの首領だったという報道もなされていますが、これは誤解っぽい。

麻薬カルテルとの闘いは警察じゃなくて軍の担当ですから、カルテルの首領だったら、日本で言えば警察庁長官が山口組の組長だったみたいな話です。面白いっちゃ面白いですけど、そこまでの話ではなく、よその国の報道では、国防相だったことを皮肉ってゴッドファーザーだったと表現しているだけのように見えます。

サルバドル・シエンフエゴスはフェリペ・カルデロン(Felipe Calderón Hinojosa)政権時の国防相で、同政権のガルシア・ルナ(Genaro GarcíaLuna)公安相が麻薬カルテルから賄賂を受け取っていたとしてすでに逮捕されていて、その流れでシエンフエゴスの疑惑も以前から浮上していたのですが、証拠がなくてメキシコでは手が出せず。あるいは報復が怖いためか。

しかし、米国麻薬局(DEA)は国防相当時、電話を傍受していたことが決定的な証拠となったようです。DEAも怖いわ。

ヘロイン、コカイン、アンフェタミンの米国への最大供給源がメキシコであり、米国のギャングたちの資金源でもあります。そこでメキシコ政府に対して、毎年、米国は麻薬カルテル対策費を提供しながら、メキシコ政府と連携して、米国内に入ったこれらの組織メンバーを逮捕しています。

いかに大統領が本気で闘う気でも、麻薬カルテルとつながっている国防相が配下にいて情報を流していたのですから、闘えるはずがない。これはこの時のことだけではなくて、各カルテルは支配地域の政治家を監視し、従わない者は殺し、隙あらば買収して取り込み、軍人や警官を高給で引き抜くなどしていて、彼らにとっては再就職先、天下り先みたいなものですから、闘えるはずがない。

※2020年10月16日付「MUNDO」 この写真の人物がサルバドル・シエンフエゴス

 

 

43名の学生が警察に拉致された事件の真相は未だわからず

 

vivanon_sentence米国務省の「年次人権報告」(2018)を読んでいたら、「警察、軍隊、およびその他の州当局が、時には犯罪組織と協力して、違法または恣意的な殺害、強制失踪、拷問、および政府と違法な武装集団による恣意的拘禁に関与した」とあって、このことは、2014年にゲレロ(Guerrero)州イグアラ(Iguala)市であった大学生集団行方不明事件で確認できます。

対政府プロテストをしていた43名の学生たちが移動のためにバスに乗っているところを警察に襲撃され、拉致されて行方不明に。

学生たちは全員アヨツィナパ農村普通学校(Escuela Normal Rural de Ayotzinapa)という教師養成大学の学生で、5台のバスを連ねていて移動する途中で襲撃されていて、この場で亡くなったのは6名、43名が拉致されます。

警察は学生たちを麻薬カルテルのひとつであるゲレロス・ウニドス(Guerreros Unidos)に手渡して始末を依頼しました。これを命じたのはイグアラ市長。妻の親族がゲレロス・ウニドスの幹部で、彼女主催の慈善パーティが妨害されることを怖れたための犯行とされ、夫婦は逮捕されています。

市長も警察も麻薬カルテルもすべてグル。というのが当初の話で、てっきり私はこれで終わったと思っていたのですが、その後、話は二転三転しています。

市長夫婦が命じたという説はすでに覆されていて、バスの一台は麻薬運搬用で、敵対する麻薬カルテルが襲った説や学生たち自身が麻薬運搬に関わっていた説まで出てきたみたい。

9月28日に出たばかりのCNNの「Parents of Mexico’s missing students remain hopeful, six years after their disappearance」は6年経った今も親たちは子どもが生きていることを信じているという内容を柱にして、ここまでの経緯を説明しており、結論を言えば「なんもわからん」ということです。

 

 

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