松沢呉一のビバノン・ライフ

ロックダウンした国でも自警団が活躍した例—「コロナ自警団」はファシズムか[2]-(松沢呉一)

自警団を避けるためにナチ党を待望する論にしか見えない—「コロナ自警団」はファシズムか[1]」の続きです。

 

 

 

理想を実現できない中で現実を踏まえた対策はどうあるべきだったのか

 

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たしかにナチス登場時のドイツを見た時に、「不安はファシズムを指向させる」と言えますから、強い政府の強い姿勢ではない形で不安を解消すべきであると私は思います。「強い政府を求めるのではなく、強い個人であれ」ってことです。

「検査しろ」ではなく、検査が本当に必要なのかを一人一人が考える。「マスクしろ」ではなく、マスクの予防効果はどの程度なのか、その効果はどういう状況で機能するのかを調べて各自が判断する。

とくに初期においては新型コロナに対するワクチンも治療薬も治療方法もない中では、病院に期待できることもほとんどありませんでした。重症化した時の手当がいくらかできるだけです。死ぬ確率は低い病気なのだから、あとの人は自分で治せばいい。自己隔離ができる環境にない老人や病人のための施設は必要だと主張してましたが、必要なのは隔離施設と入院施設の拡充くらい。

具体的には不安や恐怖を煽るような情報を止めることがなにより必要でした。これもいくつかの国がそうしたように公権力が規制するのは得策ではないので、メディアの、また、発信する個人の自覚を待つしかないのですが、煽れば煽るほどアクセスが増える中で、その自覚を求めることは困難でした。

だったら、多くの人が情報を冷静に吟味して、おかしな報道は批判していけばいいのですが、こういうスタンスからの批判をする人は少ない。いくら頑張っても私には力がないので、影響力のある大学の教員たちは、そこから始めて欲しかったものです。

そうしたところで個人が個人で判断して行動するのはこの国では難しい。それを前提にした時は政府に毅然とした姿勢を求めてしまうのももっともですが、ではそれで自警団的な動きは本当に抑制できたのでしょうか。

※2021年8月29日付「worldometers」今に至るまで、日本の数字は全然悪くない。感染者は増えても死者はさほど増えておらず。致死率は1,1パーセント。これは初期値を含めての数字で、今現在はワクチン効果でもっと落ちているはずです。ドイツの死者は92,631名で、致死率2,4パーセント。比較にならず、ドイツの方が多い。対策が功を奏したのでなく、たまたまそうなったに過ぎないのだとしても、日本は厳しいロックダウンをしなかったことを誇るべきです。

 

 

政府が厳しい姿勢をとると自警団がいなくなる事実はあるのか?

 

vivanon_sentence2020年5月2日付「朝日新聞デジタル」に掲載された田野大輔・甲南大学教授のインタビューでは、「日本のような要請ではなく、罰則つきロックダウンやマスクの義務化をした国ではコロナ自警団は存在しない。対して、要請に留まった日本では不安になった人々が自警団を組織した」との前提で成り立っています。

インタビューで正確なことを十分に語るのは難しいことを斟酌するとしても、このインタビューではその前提がない限り田野教授の発言は成立しない。

では、事実はどうなのか。以下は田野論に対する反証です。

日本ではおもにインターネットで「陽性の結果が出たのに外出している人」「こんな時に県を越えて旅行をしている人」「こんな時に人を集めてイベントをしているような人」を叩くような人々に「コロナ警察」「コロナ自警団」という呼称をつけていると思います。

私の知人でもやられたのはいますが、直接何かしてくるほどの勇気のない小心者たちの陰湿な憂さ晴らしですよ。

リアルな世界においても、県境を越えて入ってくる車を阻止したり、マスクをしていない人に注意したり、自粛していない店を探して晒したりする個人や集団はいたようですが、このレベルの話は多くの国で報道されています。その際に「コロナ警察」「マスク警察」「コロナ自警団」と呼ばれているか否かは別にして。

「ビバノン」でも、マスクをしていない人たちが市中引き回しにされた中国や、自警団のような集団がマスクをしていない人に暴行するフィリピンの動画を取り上げてきました。どちらもマスクの義務化をした国です。つまり、政府が強い姿勢を打ち出した国です。

※2021年8月10日付「INQUIRER.NET」 ロックダウンをしたフィリピンで、町内警備員、つまり自警団によって、ふらついている59歳が射殺された事件。銃器の携帯自体違法であり、射殺犯は逮捕されています。

 

 

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