松沢呉一のビバノン・ライフ

木下富美子都議の辞職会見で納得しにくかった点—島視点とは?[2]-(松沢呉一)

致命的な矛盾を生みかねないメタ弱視的発想から逃れろ—島視点とは?[1]」の続きです。

 

 

自分の置かれた境遇を「理不尽」と表現

 

vivanon_sentence私は処分マニアなものですから、昨日の木下富美子都議(昨日の段階では辞表を出しただけなので、まだ現役都議なのか、受理の時点で辞職したことになるのか、どっちかわからず、肩書は「都議」のままにします)の議員辞職会見はすべて観ました。

以下はノーカット・ヴァージョン。

 

 

1時間25分あります。そんな時間があるんだったら、映画かアニメでも観た方がいいという方はダイジェストをどうぞ。

 

 

記者たちが苛立っている点は私が苛立った点とだいたい重なってます。

大きく2点あって、ひとつは反省の弁を述べながらも、端々に不満が残っていることを匂わせていた点です。それを象徴する言葉が「理不尽」です。「自分は有権者のためにこんなに頑張っているのに、委員会に出席できなかったのは理不尽だ」と。「有権者を裏切ったのは誰だよ」って話です。

また、「推定無罪」という言葉を持ち出してもいます。とくに桐生貴央弁護士。木下都議が「議員報酬の減額ができるように都議会で条例改正案が出ていること」に対して、「無罪推定」という言葉を出したのは文脈で一般論であることがわかるのでまだいいのですが、委員会に出席したら他の委員がボイコットして、委員会が開かれなかったことをイジメだとする桐生弁護士の発言の中での「推定無罪」は「何言ってやがる」という内容。

非違行為と定められた刑事事件を起こした社員や公務員に対する懲戒はどの段階で決定されるのかはケースバイケースで、いかに判決までは推定無罪であっても、本人の聴き取りをして、判決以前に処分を決定することも多々あります。これは当然で、判決まで待たなければならないのであれば、事件によっては確定するまで数年かかりますから、その間は懲戒処分にできないことになってしまいます。現実に何年も待つことは稀にはあるでしょうが、本人が起訴内容を認めているのであれば、処分を決定してもいい。

懲戒処分は「このような判決を受けたから」ではなく、「このような行為をしたから」で決定されるものです。さもなければ裁判になっていない非違行為では懲戒にできないことになってしまいます。

今回は当て逃げについては認めていないながら、無免許運転については本人も認めていたのですから、違法行為が存在することは確定です。その違法行為は、「都議が辞職するほどのことではない」という主張ならわかりますが、「推定無罪なので、現時点で辞職する必要はない」という論理は通用しません。

この部分は桐生弁護士が勝手に持論を述べただけのようですが、本件に適用することは無理ですから、あの場で言うべき必然性はありません。シンポジウムの質問コーナーで、用もないのに持論を開陳する人と同じで、うざいです。

 

 

寄付先を公表していいのかどうかの確認くらいしとけ

 

vivanon_sentenceもう一点、私がひっかかったのは議員報酬の寄付です。議員になった7月以降、欠席していた3ヵ月間の議員報酬190万円弱を11月初旬に寄付。寄付先はNPOで、どこに寄付したかは相手の確認をとっていないので言えないということでした。

公職選挙法で、選挙区での寄付は買収になるため、板橋区外のNPOに振り込んでいて、振込み用紙の控えを弁護士も確認したとのことですけど、これまでの木下都議の言動からして「はい、そうですか」で済ませることはできないでしょう。

弁護士までグルとは思わないですが、もともと懇意のNPOに寄付をして、あとでバックしてもらい、 NPOには手数料を落とすといったズルをしていないかどうか確認をしたいところです。

 

 

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