柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『極限芸術 ~死刑囚の表現展~』 一堂に会した日本の殺人者のアート作品 (柳下毅一郎) -3,204文字-

風間 博子「無実という希望」

風間 博子「無実という希望」



『極限芸術 ~死刑囚の表現展~』

 

ico_yan鞆の浦というところに行ってきた。福山市から車で30分ほど離れた景勝地である。『崖の上のポニョ』の舞台になったので有名らしいが、江戸時代から海運で栄えた港町で、当時の町並みがそのままに保存されている。そこに築百五十年という蔵を改築した美術館、鞆の津ミュージアムがある。杉作J太郎氏の展覧会も開催したことがあるアウトサイダーには強いところだ。そこで今開催されているのが〈極限芸術-死刑囚の表現〉展である。全国の死刑囚(つまり殺人者)の描いたアート作品が一堂に会するというのだから、これは行かないわけにはいかないだろう。埼玉愛犬家殺人の風間博子青酸カレー事件の林眞須美といった有名殺人者のアート作品も含まれているという。

極限芸術展の母体になっているのは〈死刑廃止のための大道寺幸子基金〉。東アジア反日武装戦線として三菱重工ビル爆破事件を引き起こした爆弾テロリスト大道寺将司の母が作った基金である。死刑廃止運動を進める基金は、死刑囚と交流し、その肉声を世間に伝えているのだが、その手段のひとつに死刑囚の絵画がある。死刑囚の精神の安定のため、あるいは自己表現として、彼らに絵画の製作を勧めているのだ。それまで絵筆をとったこともない人がおそるおそるふるう筆からあらわれる絵画。それはいまだ誰も見たことがない極限の芸術なのかもしれない。

実は〈大道寺幸子〉基金による死刑囚の絵画展自体はこれまでも何度かおこなわれている。ぼくは国立で開催されたときに覗きに行った。ただ、今回は過去にない規模で、35作家三百点もの作品が展示されるという。これを見に行かないわけにはいくまい。(写真提供:鞆の津ミュージアム)

林 眞須美「青空泥棒」
林 眞須美「青空泥棒」

まず注目されるのは有名殺人者の作品だろう。林眞須美「青空泥棒」と題して窓もない独房に閉じ込められた自分の姿を、青一色に塗りつぶした中の小さな四角形という抽象表現で描いてみせる。眞須美にはあきらかに絵心がなく、自分でもそのことを自覚している。だからいわば姑息な手段によって「表現」をやりすごそうとする。「母と子」と題した一枚は「四歳で生き別れてしまった三女と長男」を抱きかかえる自画像である。「国家と殺人」「心情の安定」といったタイトルからも、死刑囚絵画の紋切り型をなぞってみせる頭の良さを感じる。絵の下手さを「テーマ」で糊塗してしまおうというわけだ。

 

風間 博子「潔白の罪」

風間 博子「潔白の罪」

風間博子も同じような意味で紋切り型の表現を身につけている。ただし、こちらは眞須美よりはるかに絵がうまい。「無実という希望、潔白の罪」は井戸の底に落とされた人物(おそらくは裸の女性)がはるか頭上から差しこむ光を無力に見上げるという図を描いた大作である。発想自体は絵解きであり、陳腐とさえ言えるが、画力はなかなかのもので、光の表現など大いに見せる(人物はちょっと漫画っぽい)。

 

 

 

 

 

 

 

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