『新撰組オブ・ザ・デッド』 さすが弱冠23歳でアニエスベーに認められた監督のゾンビ時代劇。まったく意味がわかんないけどな!(柳下毅一郎) -3,251文字-
監督・脚本・原案・出演 渡辺一志
出演 日村勇紀、山本千尋、尚玄、川岡大次郎
「それは人のようにもけもののようにも思えた……後世の人は彼らをゾンビと呼んだ」ゾンビ時代劇! 新撰組オブ・ザ・デッドとタイトルが出るのだが、そう言われて誰が納得するか! これはなんなんだ!? と思ったんだがバナナマン日村が新撰組最強の男に扮するとかいうんで、そんな芸人のことは知らないし知りたくもないけど、何やらテレビで人気のお笑いタレントが出るバラエティものなのかと思ったんだが、どうも見ていると様子が違うのである。
原案&監督をつとめるのは渡辺一志。本人ウェブページによれば
弱冠23歳にして『19』で脚本・監督・主演。海外映画祭で高い評価を得て、サラエボ国際映画祭では映画通で知られるアニエスb.氏の激賞を受け、新人監督特別賞を受賞。その後、アニエスb.のサポートにより、ヨーロッパ、アジア諸国で『19』は公開される。続く『キャプテントキオ』では、クレイジーでアナーキーな作風で、独自の世界観を作り上げる。
俳優としても三池崇史監督『ビジターQ』、林海象監督『探偵事務所5』などに出演。ベルリン国際映画祭に出品された奥秀太郎監督『カインの末裔』では主演の棟方を演じ、映画評論家のトニー・レインズ氏から絶賛を受ける。再び奥監督と組んだ主演作『USB』では、桃井かおり、大杉漣、大森南朋ら日本映画を代表する俳優たちと競演し、演技の幅を広げる。
弱冠23歳でアニエスベーに認められた男! 名前を聞いたことのないこっちが不勉強だった! ともかくそんなわけで世界に名を知られた渡辺一志が「サムライ・ゾンビ」として世界に売り込めるとバップに企画を持ちこみ、それでバナナマン日村とのパッケージができあがって、EDO Wonderlandこと日光江戸村も製作に加わり、しっかりSamurai of the Deadとして世界に羽ばたいているというすごいすごすぎる渡辺一志。存在をまったく知らなかった自分の不明を恥じるしかない。じゃあアニエスベーも認めたサムライ・ゾンビとはいったいどんなものなのかというと……
場所は京都のお茶屋。新撰組最強の剣士と言われる屑山下衆太郎(バナナマン日村)が芸者なすび奴(水樹たま)といるところ、土佐弁の浪人者と喧嘩になる。
「わしの女を侮辱したな!」
「そーりーそーりー、侮辱などではなくそばかすだらけの太った小豚そっくりの芸者と言ったまで」
「それが侮辱だ! 表へ出ろ!」
抜け!と迫ると悠々とした浪人者、懐に手を突っ込んで拳銃を取り出す。
「これはスミスとウェストさんの六連発でな……」
「むむむ……今日のところは勘弁しといてやる!」
すごすごと引き下がる屑山。それを物陰から見ていた局長付の切れ者山崎蒸(片岡大次郎)。
「あの男……」
そう、もちろん土佐弁の浪人と言えば坂本龍馬(渡辺一志)なのだった。山崎は一番隊付きの凛々しい美少年火藤純(山本千尋)らとともに龍馬を取りかこむ。「土佐のくれいじーほーす」こと龍馬、スキをついて火藤を人質にとるものの、胸をつかまれて逆上した火藤にワンパンKOされる。いや人質取られてたじろいでる時点で、それ新撰組なのかと……
そのころ、アメリカのカウフマン商会が日本に持ちこんだゾンビが逃げ出し、京の街に隠れていた。カウフマン商会はゾンビで金もうけをしようとしていたのだ(どう儲けるつもりだったのか、どこから連れてきたのかはまったく不明)。逃げたアメリカン・ゾンビ(チャド・マレーン)はデブ芸者とイチャイチャ歩いていた屑山を襲い、噛まれた屑山は倒れてしまう。
「山崎さん、ヤバイ」
「屑山、しっかりしろ!」
「山崎さん、ヤバイです。山崎さん、ヤバイ……」
「いいかげんにしろ!」
ほぼこれが唯一のギャグらしいギャグなんですが、バナナマンてそういう芸人なんですか? 山崎たちは屑山とゾンビ、龍馬を詰め所に運び込む。一方でカウフマン商会は後始末のためにショットガン使いの唐人エックス(尚玄)を雇う。唐人エックスはゾンビを追って新撰組詰め所へ向かうのだった……
何が凄いって、この話、登場人物がこれだけしか出てこない。もともと日光江戸村自体そんなに広いわけでもないのだが、その狭い空間に見事に人がいない! 十人ぐらいの人が右往左往しているだけなのである。ゾンビ映画はもともと金がかからないものなのだが(だから不況のときにはゾンビが流行する)、安くあが るはずのエキストラすら出てこないとかどれだけ貧乏なのか!? しかも一晩の話なので、ずっと夜景。真っ暗な画面で、誰だかよくわからないマイナー芸人と渡辺組常連役者がうろうろしているだけという……これがアニエス ベーの認める世界のサムライ・ゾンビだ! その少ない俳優の中で、いちばんいい役である坂本龍馬を自分で演じているというあたり、なんとも……
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