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柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『ライアの祈り』 さすが安倍晋三推薦、ひさびさに本気で不愉快な映画に出会ってしまった。空手レズビアンに根性をたたき直されろ (柳下毅一郎) -4,386文字-

FireShot Screen Capture #037 - '映画「ライアの祈り」 I 6月13日全国ロードショー' - raianoinori_com

 

ライアの祈り

監督 黒川浩行
原作 森沢明夫
脚本 寺田敏雄
撮影 渡部健
音楽 加羽沢美濃
出演 鈴木杏樹、宇梶剛士、武田梨奈、宅間孝行、河相我聞、秋野太作、藤田弓子

文化庁文化芸術振興基金補助

 

face「いまこそ学ぼう、縄文時代のシンプルライフーー姐御肌の明るい性格ながら、心に傷を持ち恋や人生に臆病なアラフォー女性・桃子は、気の進まないパーティで縄文時代を研究するクマゴロウという男性に出会う。太古の風景を夢に見る桃子は、クマゴロウの説明を聞くうちに自分と縄文時代を結ぶリンクに気づく」

って一ミリも理解できない粗筋を聞いたわけだが、原作森沢明夫は小百合様主演ふしぎな岬の物語の原作者。なんかそういうスピリチュアルなものね……と思ってパンフを見たら八戸市長小林眞を筆頭に、駐日ベトナム大使ドアン・スアン・フン、日本国総理大臣安倍晋三、安倍晋三ご母堂安部陽子、国土交通大臣太田昭裕、観光庁長官久保成人、総理大臣補佐官木村太郎、横綱朝青龍と錚錚たる面々のコメントが載っている。まあ八戸市全面支援なのはご当地映画としてわからないのでもないのだが、この面子はなに……? と困惑しきり。どうやら製作の川阪実由貴という人物がたいそう顔の広い人で、安倍晋三の母親(本作ではタイトルの題字も書いている)とのコネからここまで広がったものであるらしい。ちなみにパンフレットによれば

「地域活性のための文化事業や映画製作、企業誘致、地域の特性を生かした地域に根付いた支援、社会貢献など国を含めたあらゆる力を結集して街づくりを総合的にプロデュースする第一人者。日本全国の都道府県はもとより、海外からもオファーが殺到するキーパーソン。LIVEで命をつなぐ。マラソンで仲間をつなぐ。映画で世界をつなぐ。街創りで未来をつなぐ。人で平和をつなぐ。5つの方針をベースにマルチに活躍する」

 ま、そういう世界的人物が青森県八戸市に食い込んだ結果ですね……

 

 

 

ベトナム、カットバ村。

えっ。

「センパイ」と呼ばれる大男、5000年前の縄文土器が発見されたというベトナムの村へやってくる。村の族長はみなが食べられて笑ってくらせればそれでいいのだ、とロハスなシンプルライフを語り、「センパイ」は大いに感銘を受ける。

「では、人間として一番大切なことはなんですか?」

 一年前。

えっ。

生まれ育った弘前を離れ八戸に一人で暮らす桃子(鈴木杏樹)のところに別れた夫から電話がかかってくる。

「なんで番号知ってるの?」
「お母さんに聞いたら簡単に教えてくれたよ。いや整理してたらきみの小物入れが出てきて……どうする?」
「要らないから捨てといて」
「わかった。ところでオレ今度結婚することになったから」
「あ、そう……おめでとう」
「実はできちゃった結婚なんだけどね」
「×○△!」

 実は桃子と夫のあいだには子供ができず、そのせいで姑からプレッシャーを受けまくって別れた「できなかった離婚」なのだった。わざわざ電話して子供ができたと告げる元夫、粘着質な嫌みっぷりはこのあとも大いに発揮される。元旦那に凹まされながらも〈メガネの玉屋〉の支店長である桃子は、若い店員桜(武田梨奈)に誘われて地酒街コンイベントに行く。そこにやってきたのが佐久間五朗ことクマゴロウ(宇梶剛士)、冒頭で登場した「センパイ」であった。

「公務員です。専門は縄文時代」

 クマゴロウは考古学調査の専門家で、是川縄文館に勤める縄文マニアなのだった。思わぬ出会いがあったわけだが、桃子は相手の言葉をすべておうむがえしにする(そうでなければ見たものをすべて言葉にする)不思議な話し方をする人なので

「縄文時代は一万年も続いたんですよ」
「一万年!」
「どうしてそんなに長く続いたんだと思いますか?」
「どうしてなんですか?」
「それはお互いを大事にして、助け合って生きていたからなんです」
「助け合っていたんですね!」
「縄文時代の人は人が生きるために必要なものはすべて持っていたんです」

 みたいなたいへんまだるっこしい会話で縄文時代の素晴らしさが語られていく。ところでもちろんこの映画は縄文時代最高自然と人間が調和して戦争もなかったピースフルな生活という縄文至上主義に貫かれているわけだが、いくつか言っておきたいことがある。縄文時代に大規模な戦争がなかったのは事実らしい。だがそれは食糧が乏しく、平均寿命が短くて人口が少なかったからである。縄文時代、日本の人口は最大で26万人程度とされている。高い幼児死亡率のため、平均寿命は十五歳。幼年期を生き延びてもせいぜい三十歳ほどまでしか生きられなかった。まあそれでも飽食の時代には失われた真実がそこにはある、と信じたいならそれでもいいんですけどね。クマゴロウ、もうちょっと歴史に誠実になるべき。

 

 

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tags: ご当地映画 八戸市 加羽沢美濃 宅間孝行 宇梶剛士 安倍晋三 寺田敏雄 川阪実由貴 文化庁文化芸術振興費補助 森沢明夫 武田梨奈 河相我聞 渡部健 秋野太作 藤田弓子 鈴木杏樹 青森県 黒川浩行

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