柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『親父の釜めしと編みかけのセーター』 八名信夫初監督作品!いまやひとつの潮流になりつつあるような気がする「ベテラン性格俳優の初主演映画」である (柳下毅一郎)

公式サイトより

 

 

『親父の釜めしと編みかけのセーター』

監督・脚本・主演 八名信夫
撮影 荒木憲司、星野洋行、吉田良介
音楽 まついえいこ
出演 えのきさりな、三島ゆり子、長尾奈奈、大津美子、一柳みる、柴崎蟻王、西中節也、千本松喜兵衛、速水竜樹、藤田龍吾、川上未莉、平田舞

 

face八名信夫初監督作品! 悪役商会の八名信夫、最近何をしているのかと思っていたら自主映画を作って講演つきの上映会で日本各地の公民館を巡回していたのである。実はこれまたいまやひとつの潮流になりつつあるような気がする「ベテラン性格俳優の初主演映画」である。思えばキンキンのキンケロシアター映画もそのひとつであった。ただしそこはさすがにキンキンだけあって、金もあったし知識もそれなりだったし自前の劇場もあったからそんなに奇妙なものにはならなかったというだけである。キャリアも積んだ性格俳優が一本ぐらいは主演作を作ってみたい、と思うのも無理からぬことかもしれない。ほかにも小林稔侍の初主演作なんて映画も公開されているし、大地康雄主演の地域おこし映画などという恐ろしいものも存在している。まあ、そこら辺についてはまた語るチャンスがあるかもしれない。いずれにせよ、それがまずベテラン俳優のエゴを満たすための映画であり、そして映画にたくさん出ているからといって必ずしも演技が上手いわけはない、ということは忘れてはならない。宇都宮まで見に行ったが場内は驚くなかれ超満員。思いがけぬ人気を目の当たりにしてしまった。

舞台は富山県・五箇山。立派な合掌造りの家で定食屋をやっている親父(八名信夫)がいる。人の出入りがたえずいつもよくわからない老人たちがよくわからないギャグをくりひろげて愉快な定食屋だ。豪快な親父だが妻には先立たれ、一人娘のキクエは家を出ていった。妻の妹(三島ゆり子)からは「早くキクエちゃんを連れ帰っておくれ」と頼まれる。

「足を折ったじいさんと手を折ったばあさんのやってる店じゃあ先は長くないな」

 などと軽口を叩きながらも思いは足を折った経緯に……老人はかつては刑事であった。

(回想)

「たれ込みがあったから指名手配犯は波止場に来ると思ったんだが……そう言えば谷口、きみは新婚だったな」
「ええ、息子が生まれたばかりです。名前は……」

 とものすごく説明的な上にフラグまで立てまくるセリフを言い終えるやいなや車から降り立つ男。地面に這いつくばって隠れていた老刑事じたばたしながら立ち上がり

「指名手配犯だな! 逮捕する!」

 と迫るが男は平然と銃を抜いてじいさんの足を打つ。悲鳴をあげて倒れるのと同時に反対から飛びかかった若くて新婚のあんなフラグ立てなければよかった谷口刑事も撃たれて倒れる。

「たにぐちい~」

 悲鳴むなしく悠々と立ち去る指名手配犯。別に必要もない回想シーンだが、ここは数々の映画やVシネで銃撃戦を演じてきた八名信夫の見せ場なので入れざるをえないのである。

 

 

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