柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『俺はまだ本気出してないだけ』 -自己肯定に走る堤真一・・・これ全然いい話じゃないよ (柳下毅一郎) -3,084文字-

俺はまだ本着だしてないだけ表

『俺はまだ本気出してないだけ』

監督・脚本 福田雄一
撮影 早坂伸、工藤哲也
音楽 GONTITI
出演 堤真一、生瀬勝久、橋本愛、山田孝之、濱田岳、水野美紀、石橋蓮司

ico_yan「俺はまだ本気出してないだけ」っててっきりフリーターの若者かなんかのセリフなのかと思ったら、四十過ぎのおっさんが主人公なのだった。思いつきで会社をやめた四十歳のおっさん大黒シズオ(堤真一)は寝っ転がってウイイレに興じる日々。再就職もしようとせず、ファーストキッチンでのアルバイト(「本作におけるファーストキッチンのオペレーションは現実と異なる部分があります」と注意書きが出るのは第二の『ガキ帝国2』事件を心配したのか……)では新人バイトにも怒られる怠慢勤務。父親(石橋蓮司)に「おまえ、何かやりたいことはないのか!?」と怒鳴られて、ふと「俺、漫画家になるわ……」と思いついて『EKKE』編集部に持ち込みを続けるのだが、いっこうに目が出る様子はない。いや、俺はまだ本気出してないだけだから……

俺はまだ本気出してないだけ(3) (IKKI COMIX) 原作は〈IKKI〉掲載の青野春秋の同名コミック。「まさかの豪華キャストが集結」と映画のコピーにあるように、駄目なおっさんのグダグダの言い訳が続く地味なコミックが、堤真一を筆頭に売れっ子を揃えたキャストで映画化である。監督はHK 変態仮面などですでに本欄の常連となりつつある福田雄一。ということで「こんな原作に“まさかの豪華キャスト”ですよ。俺たち洒落わかるよね~」みたいな嫌らしい誇示を読み取ってしまうのは、こっちの心が歪んでるからなんだよな!

ところで、原作ではシズオは自分がおかれている状況に対して不安もあれば疑義もある。それがなくてダメ男に共感を抱いてもらうことはできまい。だが映画の堤真一は自己肯定百パーセントで、自分が漫画家として成功することを微塵も疑っていない。編集者からは毎回おためごかしでなだめられているのだがそれにもまったく気づかず、ひたすら万能感を高めていく。それ、おもしろいのか?というのとは別に、問題はそれだとドラマが起きようがないということである。主人公は挫折もしなければ成長もしないので、ドラマは周辺の人物に振られることになる。

シズオの家族は、ひたすら怒っている父親(石橋連司)と母親がわりに優しく面倒を見てくれる(小遣いまでくれる!)娘鈴子(橋本愛)の二人。一方、シズオには幼なじみの親友、宮田(生瀬勝久)がいる。サラリーマンとして地道に働いて、何かというとシズオにたかられている宮田だが、優しくなんでも受けいれる。実は宮田は「あなたは優しすぎて、本当にわたしのこと好きじゃないんだわ」と理不尽なことを言われて離婚した妻(水野美紀)と一粒種の息子がいる。シズオがバイト先のファーストキッチンで会った「今どきの若者代表」が市野沢(山田孝之)、「やりたいこと……? 別に……」と何に対しても醒めた金髪青年。で、この人たちがどんなドラマをくりひろげるかというと……

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