『永遠の0』 -合理主義の見かけに隠されている不快さ (柳下毅一郎) -3,498文字-
『永遠の0』
監督 山崎貴
脚本 山崎貴、林民夫
音楽 佐藤直紀
出演 岡田准一、三浦春馬、井上真央、夏八木勲、橋爪功、山本學、染谷将太
南京大虐殺はなかったと考えてらっしゃる大ベストセラー作家百田尚樹の原作を『三丁目の夕日』シリーズの山崎貴が映画化! 司法浪人が「海軍一の臆病者」とそしられながら特攻で靖国の神となった祖父の真実を探るという物語。とはいえ山崎貴は百田先生の特攻イデオロギーになどまったく興味はなく、ただ『ハワイ・マレー沖海戦』並にかっこいい零戦大活躍の戦争映画を撮りたかっただけだと思われる。それはたしかに実現していてですね……
祖母、松乃の葬儀で号泣する祖父(夏八木勲)の姿を見た健太郎(三浦春馬)は、実は祖父と祖母とは再婚で、母親の実父は特攻で戦死した戦闘機乗り宮部久蔵(岡田准一)だと聞かされて愕然とする。宮部と松乃(井上真央)は太平洋戦争開戦前に結婚したが、直後に出征して子供の顔も見ず戦死したのだという。弁護士である(義理の)祖父に憧れて司法試験を受けながらも四年連続不合格で「オレって人としてどうなのよ……」と人生を考えなおしつつある健太郎は、姉(吹石一恵)に誘われ、戦後六〇年を目前に祖父のことを調べはじめる。だが祖父の元戦友からは「あいつは海軍一の臆病者だ!」とそしられるばかり。日本海軍有数の空戦技術を持ちながら、戦闘参加をいやがり、乱戦がはじまると空域から離脱してしまう。毎度毎度傷ひとつ負わない飛行機で帰ってくる。卓越した戦闘技術を生きのびるためだけに活用する宮部は、日本軍人の風上にも置けない人間と嫌われていたのだ。けなされつづけていいかげん凹んできた健太郎は「これを最後にしよう……」と癌で余命いくばくもない井崎(橋詰功)の元を訪れる。彼は真珠湾からミッドウェイ、ラバウルまで宮部の部下として転戦した歴戦の勇士だった……
なんと宮部さん空母赤城搭載機の乗員だったんですね!というわけで赤城への発着着艦、真珠湾での赫々たる大戦果からミッドウェイでの慢心による轟沈まで描かれてまさかの全提督必見! CGによる艦戦と空戦の再現はさすが山崎貴で、おそらく日本映画史上最高の派手さなのではあるまいか。残念ながらこの映画、主題は宮部と松乃の夫婦愛とかそっちのほうなんで、山崎貴が別の意味でお得意の、セリフですべてを説明してさらに復習する馬鹿でもわかる演出も炸裂……
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