柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『風邪 FUJA』 「もう限界だよ」・・・それはこっちのセリフだ!この陰謀、何ひとつ成立してないじゃないか!(柳下毅一郎) -4,363文字-

FireShot Screen Capture #001 - '映画『風邪{ふうじゃ} FUJA』公式サイト' - fuja-movie_com

 

『風邪<FUJA>』

監督 橋本以蔵
脚本 木田薫子、橋本以蔵、三上幸四郎
撮影 藤石修
スキャット/主題歌 八代亜紀
出演 小西真奈美、窪塚洋介、和田哲史、クリス・ペプラー、秋吉久美子、柄本明

 

ico_yan軍鶏 巻之壱 (KCデラックス イブニング ) 「風邪」と書いてFUJAと読む『軍鶏』などで知られる漫画原作者にして『AKIRA』、『漂流教室』の脚本家である橋本以蔵の監督作品。そのコネなのかなんなのか、無駄に豪華なキャストが集まったこの映画、「極秘裏に開発された特効薬をめぐる利権争いに巻き込まれていく女性の姿を、小西真奈美の主演で描いたサスペンス」とか書いてあるんでメディカルサスペンスかなんかだとみな思うことだろう。ところが見てびっくり活躍するのは小西真奈美でもクボヅカでもなく柄本明! シリーウォークする柄本明! 踊る柄本明! 叫ぶ柄本明!と柄本明の魅力満載でお送りする柄本映画なのだった。どうしてこうなった……

映画がはじまると死体安置所に安置されているやけにグラマーな老婆の死体がうつる。そこにかぶさる八代亜紀のスキャット。なんだこれ。舞台は転じてどこかの廃棄物処理場。バイトで働いている日村紀久生(クボヅカ)はしつこい風邪に悩まされてゲホゲホやっている。たるんでんじゃねえぞ!と怒る先輩バイト、いや契約社員。

「バイトのくせに、契約なめんじゃねーぞ!」

仕事を終えると近所のカラオケスナックへ。店の美人ママ桜子(小西真奈美)は東京からの出戻りで、昭和歌謡のデュエットとかには付き合わない面倒な女だ。その店で風邪が悪化してばったり倒れるクボヅカ(カール・ツァイスの顕微鏡をいつも持っているので高校時代のあだなは「カールくん」)。真奈美はさっそく部屋に運んでかいがいしく看病する。店も閉めたっきりで毎日「今日も風邪が治らないので休みます」とか電話してくるわけで周囲からは「店しめてやってんじゃねえのかあの二人」とか言われてるわけですが、決してそのようなことはなく、ときどきクボヅカが小西真奈美に抱きついておいおい泣くとか、小西真奈美が自分の着ているものを洗濯しようと脱ぎかけた瞬間にクボヅカがあらわれて、じっと見つめ、意を決して真奈美が脱ぐとそのままスルーして蒲団に戻るという真奈美やる気まんまんじゃねーか、というシーンがあるくらい。

 

実は真奈美はシングルマザーで、心臓疾患で病院から出られない息子がいた。父親は何かの(この映画、細部がたいへんざっくりしている)NPOで働いている男津田。

「津田と結婚したことに悔いはない」

息子の見舞いに来て「おまえ、男引きこんでんだって?」と嫌らしい笑いを浮かべる津田。

「……離婚したことにも」

風邪が治らないクボヅカ。真奈美に連れられて病院に来ると

「入院したいんです。ぼくのウィルスをDNAシーケンサーで見てもらえませんか」とあからさまに不審なことを言いだす。だが風邪の権威であるという高名な医師一ノ瀬(柄本明)は何事もなかったかのようにスルー。

その夜、ベッドを抜け出すと研究室に入りこみ、慣れた手つきで自分のウィルス検査をはじめるクボヅカ。こいつはいったい何者だ!? その夜、クボヅカは病院から姿を消す。

電車を乗り継いで国際展示場前まで来た真奈美。駅前のベンチに廃棄物処理場でのクボヅカの上司、道元部長(クリス・ペプラー)、一ノ瀬医師が互いに尻を向けて座っている。「見逃すとはどういうことだ」とかなじられる真奈美。そう、真奈美は道元の命令で、クボヅカの監視をしていたのである。ひときわ妙ちきりんなアクセントで事情を説明する柄本明。

「二十年に一度のてんさいといわれたー日村はーすべての風邪に効くというばんのうのワクチンFUJAを開発したがー、実験データをもって逃亡したー」

クボヅカの風邪は柄本明がとくにデザインした感染力は弱いがしつこい風邪なのだという。つまり、こいつらどうしても治せない風邪に感染すればしかたなく万能ワクチンを開発するだろうと考えて、クボヅカを泳がせていたのだという。いやそんなのさっさとつかまえて連れもどそーぜ。事情を知らなかった真奈美。

「わたし、風邪薬のために体はってたの!?」

だが息子のため(心臓疾患なので、風邪を引くと合併症で死の危険がある!)に心を鬼にする真奈美!

「これを成功させて、契約じゃなくて正社員になる!」

それが目標なのか真奈美! バイト差別の件といい、この映画やたら就職のことばかり気にしているような……一同解散。柄本明はなぜか妙な歩き方で帰っていく。なんでそんなところで一人でシリーウォークしてるんだよ! もうここらへんでクボヅカなどどうでもよくなって気になるのは柄本明ばかり

 

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tags: クリス・ペプラー 八代亜紀 和田哲史 小西真奈美 柄本明 橋本以蔵 秋吉久美子 窪塚洋介

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