柳下毅一郎の皆殺し映画通信

『八年越しの花嫁 奇跡の実話』 あまりの粘着質の狂気に背筋がぞぞっとしたところで美しい音楽がかかって…… (柳下毅一郎)

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公式サイトより

 

八年越しの花嫁 奇跡の実話

監督 瀬々敬久
脚本 岡田惠和
撮影 斉藤幸一
音楽 村松崇継
出演 佐藤健、土屋太鳳、薬師丸ひろ子、杉本哲太、北村一輝、浜野謙太、中村ゆり、堀部圭亮

 

face あけましておめでとうございます。本年も当ブログをよろしくおねがいいたします。まあ映画界にとってはあまりよろしくないほうがいいような気もするんですけどね……

まず最初に言っておかねばならないが、これはきわめて真面目に作られた力作である。とりわけヒロイン、土屋太鳳の頑張りには特筆すべきものがあって、ほぼ一連の青空映画でしか見たことがない身としては正直、刮目。いや、これができるならあんなつまらない映画ばかり出てないで、もうちょっと野心的な企画にも出てほしいんですがね~ このままでは宮崎あおいの悲劇をくりかえすことになってしまうぞ!

さて、では肝心の映画がその熱演に応えられているかということなのだが、問題は、これが至極真面目に作られていること、まさにその点にある。物語を順序どおり語っていくなんの工夫もない脚本を、きわめて真面目に力押しで演出していく。正直、これは愚直と言うべきだろう。この話を表面通りの「泣ける実話」として語ってしまったら、それは退屈と言わざるを得ない(いったいTBSは何本そんな映画を作れば気がすむのだろうか)。このストーリーに関しては『抱きしめたい -真実の物語』で語ったことがそのままあてはまる。つまり、この主人公(佐藤健)は一種の狂人なのであり、狂人として演出されるべきなのである。しかるに本作、狂気が露呈しそうな瞬間になると、甘ったるい音楽がかかっていい話に回収されてしまうのである。「あーここで転ぶな」「あーここで泣くな」と思ってみているとすべてそのとおりにやってしまう演出はやはり愚かしいと言わざるを得ない。

 

 

 

事実に基づく物語

2006.3.17

尚志(佐藤健)は先輩に連れられて出かけた飲み会で麻衣(土屋太鳳)に出会う。「仕事が車の修理で趣味も車の修理」の朴念仁尚志が、飲み会に馴染めず仏頂面をしているのを見かねた麻衣、わざわざ二次会を抜けてきて「そんなに嫌そうな顔してたらまわりまで嫌な気分になるでしょ」と説教をかます。「いや、実はお腹が痛くて……」と言い訳をすると「そっかあ~」と急に笑顔になる麻衣。路面電車の駅での別れ際のやりとりだが、定番だけどいい感じですね。それからどういうわけか急接近していく二人。見ていると土屋太鳳がこの車オタクに惚れる理由がまったくわからず、どちらかといえば尚志のほうが前のめりに自分の思い込みだけで行動してるのが目立つ。たとえばプロポーズするのも何も言わないで

「ねえ、その指輪見せて」

 と中指にはめた指輪を預かっておいて、こっそりすり替えて、薬指にダイヤの指輪をはめてかえし、麻衣が気づかないのでしばらくやきもきしてやっと

「……これって……」
「まさか気づかないとは思わなかったよ~」

 とかやってるんだけど、これも完全に自分の思い入れだけの脳内やり取りで進行してるのがうかがえるし、結婚式も、ふとデートで前を通りがかったときに麻衣が

「この式場で結婚式あげるのが夢だったの」

というといきなりその場で式場の従業員(中村ゆり)をつかまえて

「あの、三月一七日に結婚したいんです! おねがいします!」

と予約をとりつける強引さ。さすがの麻衣もちょっと引き気味。ここらへん、狂人の片鱗はうかがえるんだけど、ヤバそうになる手前で流してしまうのである。そうこうするうちに麻衣が記憶障害を起こし、突然暴れはじめる。人格が一変し、口汚い言葉で尚志を罵り、強制入院へ……

 

まあ物語的には暗転、というところなんだけど、見ているこっちにしてみれば「やっと来たのか」である。ここまでで40分以上かかっている。この映画、そもそもが『八年越しの花嫁』なのである。ヒロインが難病で倒れ、奇跡的に回復し、そして八年目に結婚するところまでタイトルでネタバレ済なのである。そんな話を語るのに、こんないちいちバカ丁寧に手順を踏んで語っていってどうするのか。最初に言ったように、これはしごく真面目に、丁寧に作られてはいる。だけど、こんな前ふり部分を丁寧に語ったってひたすら退屈なばかりだ。そっちじゃあるまい。語るべきは尚志の狂気であり、そして(ここからはじまる)異物へと変容してしまった麻衣との出会いのはずである。

 

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